捧げもの | ナノ

二月といえば・・・?A


『あーあ、ったく何でこんな面倒なことをしなきゃなんないんだか』

「君がくだらない企画を考えたからでしょ」


ぐつぐつ


『素直にバレンタインのチョコが欲しいって言えばいいものを。回りくどいな、どうせ部下を煽動する所から計画の内に入ってたんでしょ。』


ワザとだったんだぜ、コイツ。

自分が素直になれないが故に、私の計画を気付かないふりしてたんだ。なんて奴…


「……フン」


『図星だったんかい。あらあら、可愛いねェ』


プイッとそっぽを向く彼にほのぼのしつつ、私はグルグルと手を動かす。


さて、所変わってここは風紀財団調理室。


キッチンにまで畳が侵食していることについては、あえてスルーしておこう。

先ほどの事件について軽く説教を受けた後、なにやらチョコを作れば許してくれるそうなので私はわざわざ重い腰を上げ、作りたくもない甘ったるいチョコを鍋に入れ溶かしている所であります。

ほんと、チョコが欲しいんなら板チョコ買えばいいのに。一人でごでぃばにでも行って調達してくればいいのに。

はっきり言って私はこんなもん作りたくない。理由は簡単、だるいから。


なんで原型がチョコだったヤツをもう一回鍋で溶かしていくのか。意味が分からない。溶かせばうまくなるってもんじゃあるめェし、カレーは一晩寝かせるとおいしくなるけどね!!

おでんは次の日あたりが味がしみてておいしいよね!!


あっそうだ、嫌がらせに豆でも入れてやるか。

豆まきしたときに余った豆をとっておいてよかった!!まるで神様が残しておいてくれたかのようだ!!

ハッ…これはまさに神からのお告げみたいな感じじゃない?豆を入れるのは今だ!!みたいな。


ポケットに詰め込んであるそれらを一掴み、鍋の中にバッとばらまいてやれば、間一髪ヒバリが横からひょこりと顔を出し、もういいんじゃない?とコンロの火を止めた。


『ヒバリ、今の見た?』

「……何したの?」

『……………………別に、何も』



見るからに怪訝そうな表情を浮かべるヒバリ。

しまった、湿原。じゃねーや失言。言わなきゃよかったな。

私は後悔の念に襲われた……おっとォ、今日の私はなんか頭がいいみたい!!


「まぁいいよ。後は型に入れて冷やすだけだから」

『…え?』

「えって君…」


呆れたように私を見るヒバリ。

まずい。非常にまずいぞ。多分味もまずい。

もしも冷やして固まったチョコの表面に、運悪く豆が浮き出たまま固まってしまったら…
咬み殺されるんじゃない、私。

…それだけは絶対に阻止せねば!!冗談じゃない、あんな銀色の鈍器で殴られたら…オーマイガッだよ。あれ?あれって鈍器だっけ?


『ちょ、チョコは冷やさないで食べるのがおいしいんじゃないかな!!あったかい方がチョコっていうんじゃないかな!!』

「…。」

『どっちかって言うと私はあったかい方が好きだな!!』

「…。」

『実は私、冷たいチョコを食べると心臓が動かなくなる病で…』

「……。」

『………。』

「………………。」




シャガァァァァァッ!!!



『…………………どうもすいまっせんでしたァァァァァ!!!』



スライディング・DOGEZA!!


ココで一つ、私からの忠告。

ストッキングでこれをやると、穴が開くよ!!

並盛町在住Aさんの証言。『私は穴が開くどころか、足首まで突き抜けました。』


***
『さ、さぁ!!チョコフォンデュをやろう!!』

「君が何をいれたのか、とても楽しみでならないよ。」


後ろから何やら悪魔の声が聞こえてくるが、右から左へと流していこう。

ぐつぐつ、と目の前で煮える、ソレ。

チョコレートがボコボコと泡を立てているその様は、おいしくみえなくもなきにしもあらずだが、後ろにサタン様が降臨している以上どうしても地獄にある血の池にしか、見えない。

恐ろしやァァァァ!!


「君はイチゴにするのかい?」

『チョコフォンデュといえばイチゴだろ』


振り返ってちゃっかりと私を膝の上にのせている彼を見れば…マシュマロを二個、三個と鉄製の串…いや、ハリネズミのロールの棘にブッ刺しているところだった。

またその手つきが悪意を感じさせる。いや、なんかロールも涙目になってるし、やめてやれよ。可哀想だろうが。


『え、何いきなりどうした?ロールとマシュマロが何をしたっていうんだ!!』

「この白い物体を見てると、ミルフィオーレの人間を思い出してね…つい。」


ついじゃねーだろ、とんでもねーよコイツ動物愛護団体に訴えてやろうかな。

フルフルと震えるロールの棘からマシュマロをすべて抜き取ってやれば、こんどは鉄製の串に刺しまくっていた。


『おいおい、もうその辺にしておけよ。まだあの潮干狩りを根に持ってんの?』

「ボンゴレ狩りね、そしてあさりを狩ることでもないから。」


ああそう、と曖昧に相槌を打ったのは、冷静にツッコミを入れてくる彼の休むことのない手の動きに圧倒されて、私は全然話を聞いてなかったから。

まぁよっぽど悔しかったっていうのは痛いほど感じたから、よしとしよう!!


そんな幼いところもまだまだというか、可愛らしいというか…子供みたい。

横目でヒバリを見ながら串に刺したイチゴをチョコの中に入れる。


ジュワッ!!


『ん?ジュワッ?』


変な音がして、あたりに焦げ臭い匂いが漂い始めたので急いでイチゴを引き上げてみる。

…あれ、イチゴって赤いもんじゃなかったっけ…こう、こんな真っ黒で炭みたいな感じのフルーツだったっけ。


「……。」


今度はヒバリがマシュマロをチョコの中に大量に入れる。

……数秒後、真黒くなって死んだ魚のようにソレは浮き上がってきた。


どうやら、温めすぎたようだ。


『あらら、そりゃぁもうだめだね』

そう言って鍋を片づけようと私が腰を浮かしたとき(大体、なんでフォンデュを土鍋でやるのか)ヒバリは私が持っていたモノを奪い取るように引ったくり、口の中に入れた。

あの、暗黒物質と書いてダークマターと呼ぶ、焦げたイチゴを。



…ゴリュッ!!ガリッ!!ジュグシュゥッ!!



『……なんか、この世のモノとは思えないほど不気味な音がしたけど、大丈夫?生きてる?』

「…君、何入れたの」


ほら、見るからに眉をひそめてる。つーか不味い原因豆じゃなくね、焦げたからじゃね。

もうこうなったらエスケープするしかねーな!!


『鬼は〜外っ!!福は〜内っ!!』


ランナウェイッ!!!あばよ、ヒバリ!!強靭なその胃袋ならどんな場所でも生きていけるさっ!!!



ダッと駆け出すも虚しく、ヒバリに足を掴まれ畳へとダイブッ!!!


ドゴッ!!!



もちろん堅物の畳が優しく受け止めてくれるわけもなく、私は顎を強打した。

のしかかるヒバリン。

端から見ればサンドイッチだ。なんてカオスな絵ヅラだろう。


「僕が鬼だとでも」

『ええ、もうその通りでっ!!』


「フン、咬み殺すよ。」


『メンゴーき……きょ、恭弥!!』


「!!………聞こえなかった、もう一回言って」『チキン!!!』「咬み殺す、よ。」




あらら、顔真っ赤。



今日も並盛は平和です。

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