捧げもの | ナノ

そのわけとは。


今日の桶川さんはちょっとおかしい。

…言い間違えた、ちょっとなんかじゃない。明らかにおかしい。

朝、廊下でバッタリと鉢合わせした時おはようさぎィ!!と挨拶をしたのに、一瞬ピタリと彼は動きを止めて、私とは目を合わせずにダッシュでその場を去った。

授業中、何か椅子に座ってるのがたるかったので桶川さんの所(いつものたまり場)へと足を運べば、彼とその手下である河内、後藤のみならずその他のモブキャラ達は誰一人としていなかった。

お昼に一緒に弁当を食べようと彼のクラスに顔を出せば、私を見た途端ダッシュで四階の窓から飛び降りる始末。

『……チクショォォォォォ!!!桶川の奴ゥ!なんで?!何で避けられてんの?!仮にも私は緑ヶ丘の裏番だぞ?!bQだぞ!!私、なんかした?!』
「やっぱり朝の挨拶がいけなかったんじゃない?もうネタが古いからね…」
「つーか生きてんのかよ、桶川。」

そして現在、一人で寂しかったのでお友達の早坂「誰が友達だ」と真冬「友達ってゆーかもうな・か・ま☆みたいなー」に話を聞いてもらっている。ぐすっ。

『初めてだよ、このヤロー…あの人が私を避けてんの。…あ、やっぱ二回目だわコレ。前に寮の冷蔵庫にあった桶川さんのプリンを食べたら、一週間口を聞いてもらえなかった。』
「またプリンでも食べたんじゃねーの?自分の知らないうちに。」
『んな馬鹿な』

「…そんなに気になるんだったら番長に直接聞きに行けばいいんじゃないの?」

真冬がふて腐れている私に慰めの言葉をかけてくれる。
お前、なんていいやつなんだ…薄情などっかの人間ども(該当者、桶川さん等)とはえらい違いだよ、うん。

『じゃあどっちか二人私についてきてよー避けられてるんだから、桶川さんを引き留めてくれる?』
外に向いていた視線をぱっと二人の方に上げれば、彼らは視線を合わせまいと後ろを向いていた。
『………え。』



『はくじょーもんはあいつ等(候補者、桶川さん等)だけじゃなかったよォォォォォ!!』

ダァンッ!!と机を叩けば、目の前に居る人物は驚いたかのように、ビクッと肩を揺らした。

「…何や、ここまできて言いたかった事はそれだけかい」

ハァ、とため息をついて彼は止まっていた手を、再び手を動かし始めた。
ここは緑ヶ丘第一男子寮。
私は女だから正面からは入る事が出来ないので、頑張って壁をよじ登り、窓ガラスを割って寮の一室に入ったかと思えば…生徒会の綾部がいた。

窓ガラスを割った事については物凄く怒られたが、事情を話せばなかなか大人しくなってくれたようだ。今は静かに私の話を聞きながら、私の汚れた靴をピカピカにワックスで磨いてくれている。

『お前はさぁ、これだけとか言ってるけどさぁ、私にとっちゃぁ人生初…じゃねーや二回目の事なんだよォ!!何で無視すんの?私の心が繊細でガラスのハートだってことをしらねーのか?!』
「ガラスはガラスでも防弾ガラスやさかい、桶川の奴も撃ち抜けずに諦めたんちゃうか?」
『それどーゆー意味』

バンッと綾部が拳銃で撃つ真似をして見せてくれるが…何?ノックダウンしろと?シネって言ってんのか、オイ。

「おいちひろ」

不意に後ろの方から、とても聞きなれている声が響く。

クルリ、と振り返れば…まぁなんとも不機嫌そうな血管千切れそうですよ、とつい言ってみたくなる顔をした桶川さん。
そんなこと言っちゃったら、マジで血管切れそうだなと思いつつも彼の次の言葉を待った。

「ちょっと俺の部屋まで来い」

…んだよ、さっきまでバリバリ避けたくせに。いきなり命令かこのヤロー。
しかし番長の命令は絶対なので仕方なくついて行く。
部屋から出る際、チラリと綾部の顔を盗み見れば私の事などは全く気にせず、まだ靴を熱心に磨いていたのだった。

『…さあ説明してもらおうか。桶川さんが今日一日とった行動を!!』

さて、所変わって桶川さんの部屋。

私は彼の机の椅子に胡坐をかいて座り、当の本人はというと床に正座中だ。
そして私の手の内には髭がワンポイントというネコマタさんのキーホルダー。彼の弱点だと言ってもいい。

「今日はすまなかった…その、アレだ。どうかネコマタさんだけは…」
『説明できなけりゃ、ネコマタさんをつぶすまでよォ』

右手にグッと力を込めれば、二頭身にしわが入り、目の前に居る人物からは悲惨な声が聞こえてくる。

ちとやりすぎたかな。

『なんで、私をみて逃げたの。』

椅子から降りて、桶川さんの近くに腰をおろせば、ポツリポツリと話してくれるようになった。
どうやら、彼は最近私を見ると具合が悪くなったのだと言う。

「最初はよォ、なんか胸の辺りがもやもやしてたんだが最近は棘に変わってきて、つきさすんだよ。痛みはねーんだが…痛いんだよ、心の辺りが。」

…へーとりあえず病院、行こうか。

「なんかお前を見るたびに痛くなるしよ、お前の事を思い出すたびにロクに喧嘩もできねェ食事ものどを通らねぇンだ」

精神科に行ってらっしゃい。

「でもよ、後藤から壁を登って綾部の部屋に入ったって聞いたときに、ブッとばしてやろうかと思ったんだ。お前と話してる綾部を」

……。

「だからよぉ…この際言っちまおうと思ってな、なかなか勇気がでなくてよ。逃げたわけじゃねぇんだ、緊張してただけなんだからな!!」
『いや、明らかエスケープしてるようにしか見えなかったよ。逃げてたんでしょ、言えなくて。』

プクククとバカにしたように笑えば、のってくる桶川恭太郎(留年中)

「…だーっ!!くそっ、じゃあ今言ってやる!!!…その、あ、アレだ…えっと…」

ワシャワシャとオールバックの髪をかき乱す、桶川さん。

何も言わない私をみてついに決心したのか、真っ赤になった彼は口を開いた。



「…せっ、責任とりやがれェェェ!!!」



『じゃあ桶川さん、私が何で桶川さんにしかさん付けしてないのか、わかりますか』
「…?そういや、そうだな」
『初めて会ったときから…いや、やっぱなんでもない』
「おい、何だよソレ。教えやがれ…オイ、タヌキ寝入りこいてんじゃねーぞ!!起きろ!!え?まさか本当に寝てんのか?おい、ちひろ?!」

初めて会ったときから、私は貴方を目指していた。
貴方に憧れてた。キャラが崩壊してるような事があっても、やっぱり桶川さんみたいになりたかった。
あの、大きな背中について行って、認めてもらいたかった。
貴方が、私にとっての特別な人だから。
桶川さん――私も貴方が好き、です…なんて桶川さんほどじゃないけど、恥ずかしくて言えるわけない。



「…おおおおおっやっぱすげーよ河内、よくここまで計画たてられたな!!」
「まぁこんなもんだろ。自然な感じの友人からの助言、自然な友人との嫉妬関係、そして最後には自然な告白!!…でもまさか桶川さんの方から行くとはな。」
「俺たちがちひろさんの後をついて行ったかいがありましたね!!」「番長と裏番長の幸せを祈って…カンパーイ!!」
隣の部屋ではのぞき見をしていた手下河内、後藤、モブキャラ達は飲み会をしていたという。

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