短編 | ナノ

Trick and treat!!


10月31日――

そろそろ本格的な冬が近づいているのだろうか、いつもよりも気温は下がり冷たい風は通行人たちの間を吹き抜けていって手足を冷え性へと誘う。
並盛中に通い、一番その中で恐れられているという彼も例外ではなかった。

『ハッピーハロウィン!!ヒバリン!!』
「…。」

彼――雲雀恭弥は目の前にいる、何とも奇妙な格好をした彼女に凍てついたような視線を浴びせる。
ただでさえ冷え性でイライラしているというのに、無駄にテンションの高い彼女についていけない。
ムスッとした表情で何も言わずに彼女を見ていると、そんな雲雀の状態を見るまでもなく嬉々として彼に両手をズイッと差し出すのだった。

『とりっくあんどとりーと!!』
「なんでアンド?違うでしょ」

真っ黒なワンピースを着ながら頭にはかぼちゃの帽子を乗っけて、顔には傷痕をつけスカートからは獣の尻尾が伸びている。
いろいろとおかしい。
彼女――並盛ちひろはさっきの言葉を日本語に訳した。

『お菓子もいたずらもするけど、取りあえず菓子だせや』
「…君はいつも自分の欲望に忠実だね、まあいいや。この僕がお菓子を持っていないとでも」
『何でドヤ顔?』

雲雀は椅子から立ち上がり、冷蔵庫を開けて彼女の好物であるチョコレートを出してきた。
それを机の上に置けば、嬉しそうに食べ始めるちひろ。

「トリックオアトリート」
『…はい?』
「お菓子をくれないといたずらするよ。」

何を言っているんだこのチキン、と彼女は首をかしげる。
どうやら自分がその言葉を言われるとは思っていなかったらしい、意味を理解した瞬間ちひろは顔をひきつらせチョコレートを持って、逃走しようとした。

が、すぐ傍に居た雲雀にかなうはずもなく腕を勢いよく掴んだ反動で彼らは一緒にソファーへと倒れこんでしまった。

『くそっ、ずるいぞチキン!!私をエサで釣るとは卑怯な奴め!!』
「いや、お菓子を食い逃げする方が卑怯だと思うよ。そんなエサで釣られた君が悪い。」

もがく彼女を簡単に抑え込むようにして、自分の腕の中に閉じ込めれば観念したかのようにちひろは脱力して、雲雀に背中を預けた。

『ん、ヒバリン。なんでこんなに手が冷たいの?』

自分の膝の上にちひろを乗っけたまま、いたずらも何もしない雲雀の手でなんとなく遊んでいた彼女はその尋常じゃない冷たさに少し驚く。

「…冷え性でこうなった」

ボソッと呟く雲雀。
どうせプププヒバリンださっ、みたいなことを言われるんだろうな、と彼は一瞬で今の発言を後悔した。

『プププヒバリンださっ!!』

やっぱりか

『…しょうがねぇなーよっと』

何を思ったのかピョンッと彼の膝を飛び降り、応接室の戸棚の一番下の段を開けて何かを引っ張り出し始めた。
小さな体を一生懸命使って引き出すそれは――

「毛布かい?」
『どうだ、ふわっふわだろ?!』

雲雀の膝の上にリターンしてきた彼女は彼の手を自分の手と重ね合わせ、その上から自分と雲雀をすっぽり覆うような毛布で二人をぐるぐる巻きにした。

「あったかいね」
『…失敗したな、私は暑いぜ』

温かい。
彼女と自分との重ねたその手が。

「(…いたずらは貸しにしておいてあげる。)」

いつか、その温もりが自分だけのものになった時。

もう一度、あの言葉を言ってあげよう。

――Trick and Treat ――

いたずらと、甘いお菓子のような時間を、

いつかまた、二人っきりで――

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