短編 | ナノ

そういえば


ふと、思った事。

『ちょっと、自分の思ったポエムをタイトルと冒頭文に載せるのやめてくんない、甘い感じだと思われるだろーが』
「…。」
『違うのかい?みたいな目で見てくんのやめてくんないかい?どうあがいたってさぁこのサイトのこんで…こんっ…こ…コルセットは変わんないんだよ!!!』
「コンセプトね」

相変わらずバカだとため息をつけば、彼女の鉄拳が飛んでくる。ひょいっと避けるが、避けた先には哲がいたのに気付かなかった。悪い…とは思わないよ、だってちひろは強いからね。

「恭さァァァァァん!!!!強いとかそんなレベルじゃありませんよ!!!ちひろさんの拳は凶器ですよ!!凶器!!!」
『んだとゴルァ!!!か弱い私をそんな風にいじめて楽しいか?あん?』
「そんな言葉づかいでよく自分をか弱いなんて言えるね」

僕がそう口を挟めばこんどは拳ではなく幣が飛んできた。
チェルヴォを手なずけてからというもの、彼女はいつでも幣を携帯している状態にある。…つまりいつだって幣を装備している、昔の僕と同じように。

『ぷぷっあいつ今絶対昔の僕と似ているとか、そんなこと考えてんぜ!!!ポエムってるよ絶対!!!』
「ちょ、ちひろさん!!声が大きいですよ。前みたいに怒らして離婚届ちらつかされたらどうするんですか!!!」

『むむっ、その件なら大丈夫だ。奴は入り婿、仕事上での苗字こそ変わっちゃいないが戸籍上れっきとした並盛家の人間。立場的には私の方が上だからな!!』
「…いえ、苗字はちひろさんの方が変わったんですよ、ご存じありませんでしたか」

はっ?と間抜けな声を背に、僕はお茶をすする。今更何をいっているんだろう、あの子は。あの子ってほどもう僕たちは若くないけど。年くってるわけでもない。
しかもアレ離婚届なんかじゃない、そんなもの必要ないしいらない。たまたまけん制の意を込めて僕の持っていた結婚届けをちらっと見せただけじゃないか。

君があの時あの紙を持っていなかったら、きっと僕の持っている方の届けを使っていたはずなのにね。

『じゃあ何だ、私の苗字はヒバリ…いや、雲雀ってことなのか?雲雀ちひろってことになってるのかオイイイイイイイ!!!!』
「大きな声をださないでよ、うるさいでしょ」
『ちくしょうなんだよ!!!戸籍登録んとき一緒に行って来ればよかった!!!ちゃんと役所の人間にわいろ渡しておいたのにさァァァァ使えねェ奴らだよジーザス!!!』

君、めんどくさがって外に出なかったじゃないか。

「わいろって…一体何を渡したんです?」
『…並盛一等級品洗濯バサミ』
「ただの嫌がらせじゃないですか、よりによって一級品を…」
『しかもその洗濯バサミは頑丈で布すら細切れに切れるほど研磨されたものなんだぞ!!!あーあもったいない。』
「それただのよく切れるハサミじゃないですか。」『そうだけど、何?』
「…。」「…やっぱり君はバカだよ」

僕の飲み干した湯呑を見て、台所へと消えて行った哲。この場に残されたのはうなだれている君と僕。
「ねぇ、何でそんなに落ち込むんだい。結婚して最初の方はどっちの苗字だろうと変わんないって宣言してたでしょ。」
『……だって、』
ゴロリと仰向けになってこちらに視線を合わせる。ぷーっと膨らんだ頬がリスを通り越して風船みたいだなと思った。
『どっちもヒバリじゃてめーの事をなんて呼びゃあいいんだ、私の苗字だったら私はヒバリ、雲雀はちひろって呼んでたろ?くっそやろーがぁ…』

なんだ、そんなことか。
『なんだとは何だ!!!これでも真剣に悩んでたんだぞくそチキン野郎。丸焼きにするぞ』
「ふーん、だったらちひろも名前で呼べばいいだろ」
『いやですぅーめんどくさいですぅー今更じゃんか!!!やだ恥ずかしい鳥肌たつ!!チキンだけに』
「だれがうまいこと言えなんて言った?結婚したのも今さらでしょ、これから表立った行事もあるんだし、今の内だと思うけど。」
『うまいのはチキンの丸焼きだ………』

またゴロリと寝返りをうち、数分もすれば小さな寝息が聞こえてくる。どうやら考える事を放棄したらしい。ちひろらしいけどね。
よいしょ、と畳に座っていた足を崩し、彼女にかけるための薄い毛布を探しに行く。アジト内とはいえ冷房も整っている所だから、そのままだと風邪をひいてしまうだろう。
「…世話のかかる子だね」
そっと肩に毛布を掛けてやれば、何やら彼女の口が動いた。
耳を澄ませて、そっと近づけば半ばやけくそに、うわ言のように呟いた僕の名前。

「…驚いたよ、君にそんな一面があるなんて。やっぱりちひろと長くいて損はないね」
『あん?てめー顔がゆでたこみてぇだぞ、たこ焼きにしてやろうか。チキンのくせに』
「ふん、ちひろに言われたくないな……ああ、そういえば。」
『?』


「いや、なんでもないよ」

僕の名前を呼んでくれたのは、いつだったっけ。

そんな言葉を飲み込んで、僕は言った。
「今、呼んでくれてくれればそれでいい」
『…ふん、私がテメーの名を忘れなきゃ、いつでも呼んでやるさ、なっ?ポエマー?』
「やっぱりバカだよ、君。」

のほほんと、過ごしたとある日の休日。

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