サンタさんとサタンさんの仲介役は…めりーくりすます!!A
「え、ちひろさんですか。今はお風呂じゃないですかね。やっとペンキ塗りが終わったって言ってましたので。」
約10分。無駄に広いこの境内の中、草壁を捜索するにあたってかかった時間だ。
いつものキッチンならばすぐ見つける事が出来るのだが、生憎今日の雪の影響で水道管が凍ってしまったらしく、井戸に近いほうの台所を彼は使っていた。
話を聞けばちひろの夜食であるビーフシチューをつくっているらしい。
「ふうん、それはいつもの露天風呂の方?」
「ええ、先ほど庭の方からザッパァァァァン!!と音がしてましたので。」
雪が降りしきる中で屋根のない露天風呂…大丈夫なのだろうか。
頭に大量の冷たい雪を積もらせ、湯に入っている彼女の姿を想像して、僕は少々不安になる。
…いや、不安半分おもしろ半分。
「ほかの風紀委員は」
「ちひろさんが露天風呂に入るって言ったらプレゼントだけ置いて、どこかに行ってしまいましたよ。」
ほら、と彼はその場に積み上げられている、色とりどりにラッピングされたソレを指差す。
しかし、そう言う草壁の額に冷や汗が滲んでいるのを僕は見逃さなかった。
「…」「?委員長?」「…」「……。」
「…」
「…………私は覗いてません。」
僕の沈黙に耐えられなくなったのか、リーゼントの彼は小さくそう漏らした。
そんな彼にトンファーによって制裁を加え、外の庭へと続く廊下を急ぎ足で走る。
パンッと襖を開ければ――――
「……。」
『んんん…もう食べれましぇん、チキンーサタンタさーんむむブクブクブク』
「うぐっ…い、委員長っ!!お助けをォォォブクブク」
うっすらと頬をピンク色に上気させ、もう意識はないのだろう、くーくーと寝息まで立てながらタオル一枚の姿で眠り、湯の中へと沈んでいく彼女と。
その横で死体のようにぐったりと倒れている、部下である風紀委員。
ある者はピンクのペンキをかぶって気絶し、またある者は、銭湯などによくある木製の桶を頭にぶつけられたのか気絶。
更には寝相の悪い彼女が、ほか二名の風紀委員を温泉に引きずり込み、気絶こそしていないものの呼吸さえままならないようだ。
「……。」
数秒の沈黙。
とりあえず風紀を乱したということで、部下二名を咬み殺し、この寒空の中ちひろをそのままにしていくこともできないので、彼女を引き上げ部屋へと戻す。
「…本当に手のかかる…」
子、と言いかけて、僕はふと思った。
このまま彼女を着替えさせてもいいのだろうか、と。
普通ならこのまま部屋に置いて帰るべきだが、今日はいつもよりも寒い。
しかもタオル一枚というこの着薄さ。
文章ではそんなに危機感を感じないだろうが、この絵ヅラはどう見てもマズイ。
あと一歩だ。あと一歩踏み出してしまえばR18になりかねない。
僕は少し考えて、彼女を着替えさせることにした。
このまま放置してしまえば、ちひろが風邪をひく事は確実。
さっきもくしゃみをしていた。
まあ一回、寝巻姿だった彼女を制服に着替えさせた事もあるし、彼女も気にしていなかっただろうし、大丈夫だろう。
なによりもちひろの瞳の中には男として、僕は映っていないのではないのか。
そう考えると、少しばかり複雑な心境だが…それは今じゃなくても後から何とかなるだろう。
ただただ、今は一緒にいるだけでいい。
体を濡らしていた水分をタオルで拭き取れば、コテンと彼女は寝がえりを打つ。
ふと、チラリと外に乾かしている黒いマフラーに目をやった。
なぜ乾かしているのかというと、ちひろは僕のマフラーをつけながら露天風呂に入っていたらしい。
彼女を湯から引き揚げた後、咬み殺された部下達を救出していた草壁が沈んでいると持ってきたもの。
もちろん、この部屋に入ってくる前にもう一度咬み殺してしまったが。
「……ヒバリ…」
ポツリと呟いたその言葉に、なぜか僕の心は少しだけ軽くなって口角を無意識に上げていた。
別に裸なんて、ずっと一緒にいればどうってことなくなるんだけどね。
もしも君が気にするような事があるんだったら、僕が責任を取ってあげる。
…なんて、言ったら“なんで上から目線?!ムカつくなオイ。”とか言いそうだけど。
今日は12月24日。
サンタさんが僕のところにも来てくれるのなら、一生分のプレゼントでもいいから、それがいい。
ふと、こんな事を考えている自分がバカバカしいな、と思いながらも、僕はどこかでほんの少し期待をしてる。
サンタさんなんて幻想にすぎないのに。
温かい服を何枚も着せて、最後に布団を敷いて彼女を寝かせる。
それだけだというのに、目の前の人間が堪らなく愛しくて、抱き寄せたくて。
まだ、そんな事はしちゃいけないとわかっているから、ただ僕は、彼女のまだ少し濡れている額にそっと口づけを落とした。
―――メリークリスマス、ちひろ。