短編 | ナノ

yes!!ポッキーゲーム


11月11日――穏やかな風が、並盛町を吹き抜けていく。
並盛中学校―そこの応接室では、外とは違うピリピリとした空気が流れていた。

「ちひろ」

低い、そして殺気を少し含んだ声が私の名を呼ぶ。

ピクリ、と正座をしている自分の肩が反応するのがわかる。もちろん、無意識だ。
額に冷や汗が浮かぶ。
彼は怒っている。当たり前だ、私がここの風紀を乱したから。

そう、原因は私だってちゃんと理解している。

彼はゆっくりと近づき、右手にあるそれの内の一つを口に含んで、私に見せつけるようにして顔を近づけた。

「…これは、校則違反だよ。」

ブチィィィィ!!

『んだとゴルァァァァァ!!それはてめーもだろうが!何で私のもんを我が物顔して食ってんの?!何で私が珍しく大人しくしてたら調子こいてんの?!返せっそれは私のもんだ!!』

「実際これは没収だよ。」

ポリポリポリ、と彼―雲雀恭弥がかじっているのは夕張マロン味のポッキー。

私が期間限定の言葉に誘われて、コンビニで買ってみればその場を奴に目撃されて、結果がこれだ。

『応接室の戸棚にゃ、いつも(私の)お菓子が入ってるだろーが!!なんで持ってきちゃいけないの?!』
「って言っても、これあと残り一本じゃないか」
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!パンナコッタァァァァ!!』

その最後の残りの先端をパクリ、と咥えるヒバリ。

目の前のソファーに座ってドヤ顔でポッキーを上下に揺らす。

何?“悔しかったら食べれば?”?上等だよこのヤロー!!

長年幼馴染というものをやってきた勘からか、何も言わなくてもチキンの表情から大体言いたいことが分かってきてしまっている自分が悲しい。

しびれる足を引きずりながら、私は彼の膝をよじ登っていく。
くっ、なれない正座なんかさせるから…やっぱこれ食べたら一発ぶん殴っとくか。

『ヨイショ…ンだよチキン、なんか文句でもあんのか』
「…ふぇふふぃ(…別に)」

不安定な二本の膝の上に、ちょこんと乗る私はぐらぐらと左右に揺れる。
非常に危ないのを見かねたのか、ヒバリは私の腰に手をまわして固定してくれた。

パクリ、と味のついていないプリッツの部分を口に含んだ。

「ポリポリ」

いや、ポリポリじゃねーよ。せっかく私が食べようとしてんのに、口動かしやがって。

『ふふぁふぇふぅふぁふぇーふぉ!!(ふざけんじゃねーよ!!)』

私も負けじと口を動かす。

ポリポリポリポリ
ポリポリポリ…

甘い部分に近づくために、真剣になりすぎていて気がつかなかったが…
…これ、近くね?

まって、今ヒバリの鼻と鼻、ちょっと触れあったよ。

おいおいおいおい、待て待て、お前っコレェェェェ!!

ポッキーを口に入れているため、叫べないが心の中で思いっきり叫ぶ。

ちょっ…コレェェ!!

これやばいって!!
何?“やばいのはちひろの頭”?ンだとこのチキンが!!
南蛮漬けにしてやろうか?!

“やってみなよ。君がそんな事を言っているほど、食べる速度が遅くなっているのに気がつかないのかい”

ポリポリ

ンだと?!そういうヒバリこそこの状況でポッキーゲームとか言って実は楽しんでんじゃねーのか、速度落ちてるぜ

ポリポリ

“…君、ポッキーゲーム知らないでしょ”

ポリポリ

フッ、笑わせるなよ。じゃあいいか、説明してやろう。ポッキーゲームというのは相手と相手が両端から―――っ!!



息が、止まった。



外気に触れているポッキーを食べ、重なったその中にあるものまでをも、ヒバリのそれ―何かとは言わない―ですくい取り、もう離れるのかと思いきや、ちゅっと音を立てて軽く触れるように――再度、重なる……唇が、だ。


『ヒッ…ヒバッ…てめっ!!』


何をする、と言うに言えず。

満足そうに珍しく口角を上げる彼は、今までに見たことのない最上級のドヤ顔で言い放った。


「11月11日――ポッキーゲームの日だよ。」

『いやちげーだろォォォォォォ!!!』


ドゴォォォォンと、私の手の内にあった幣により、応接室のソファーに穴があいて今までの一部始終を見ていたママン草壁が後日、新品に取り換えず思い出の品、みたいな感じでそのままにしておいたら、咬み殺されるというのはまた別の話。

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