088 むれという漢字は群馬の群の字を使うのだろうか。
ぬるい。
今飲んでいるたっぷりのオリゴ糖入りカフェオレ…もそうなのだが、何より今私の身に纏わりついているモノ、がだ。
「しょうがないでしょ、それとも何だい?全裸で歩く気でも?」 『お前、頭大丈夫か。』 「ちひろにだけは言われたくなかったよ。」 『いや、今のてめーのセリフは言わざる得なかった。』
スーツ姿でカツカツと通路を歩く、目の前の男を見た。
匣兵器を二つばかし腰にぶら下げ(さっきまで胸ポケットに入れてた)歩く上下運動により揺れる短髪。奴を見るとき視線を上にあげなきゃならんのが、結構面倒だ。
『なーあー今どこ向かってんの?』 「地下一階の大ホールだよ。そこで草食動物達を迎え撃つ。」
『?ダメツナの事か?』 「……草壁が話さなかったかい?ミルフィオーレのことさ。」
ああ、ミルフィーユみたいなおいしそうな名前の方々ね。
するとヒバリはいきなりピタリと立ち止まり、スーツの内ポケットからおもむろに何かを取出す。薄い…定期券、かと思ったがどうやら違うらしい。 壁にそれを差し込めば、ピッと小さな機械音が鳴り響き、カードらしきものが白い金属製の壁に吸い込まれるかの如く消えていく。
『おお、流石十年後の世界…かっけぇー』 「この時代の君はこの機械的な環境を嫌ってたんだけどね。」 『ん、そうなのか?』 「なんか、時代はアナログ派だって叫んでたよ。」
マジでか。十年で何があったんだろう、私。こういうのもなかなか嫌いじゃ無いんだけどなー
ガコンッ!!
『うおっ』
まるで歯車か何かが外れたような音が足元から聞こえ、一瞬沈み、そして上昇していく。 なんだなんだ、私何かしたか?もしくはヒバリが?
「エレベーターだから心配しなくてもいいよ。」 『へー振動が少ないな、なんか変な感じ』
動いているのか動いていないのか、上がってんのか沈んでいるのか、よく分からない。 それほど、静かなエレベーター。やっぱり十年後の世界は居心地があんまよくない。私の知らない世界だから。
初めての事が多すぎて情報量が多すぎるのか。ホッと息をつける場所なんて無いんじゃねーのかねェ。
見てみろヒバリのあの手の動き。どうやってんのか知らんが、指の動きが高速すぎて目が追いついていけないよ、ちくしょう。 そんな先端技術エスカレーターをいとも簡単に操る彼の姿を見て、私は少し口を尖らせた。
ゲームなら負けないのに。
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