復活 | ナノ




 
 
 
079 入院って誰しも一回は憧れてしまうもの。



ぱちっ

目が覚めた。しかもすごく爽やか。いつもは寝起きは悪いというのに。

あれ、なんか変な匂いがする。…消毒薬のような、独特なにおい。人よりも鼻がいい私はそれに眉を顰めた。

んん?ここはどこだ?嫌な予感しかしねぇ、毎度毎度お馴染みの、あの場所。
その予感が的中したようだ。枕、そして布団の感触がいつもと違う。

ムクリと上体を起こした――その途端


『っ――――!!!いだいいだい!!!何コレッ!!うわっ!痛いっ!!ナニコレっアクロバッティング!!!』


激しい、全身を貫く電流のような痛みに、意味不明な言葉を発しながら私はバタリとベッドに再度、倒れこんだ。


『くそう、道理でシロクマのようなこの布団、枕……言うまでもないな!!病院だ!!!』

「もう口に出してるじゃないか。…まったく、君は何度病院送りにされれば気が済むんだい」

『あ、ヒバリ』

病院の定番、ハンバーグ定食を持ってきたヒバリはパタンとドアを閉めた。もちろん自分が入るのを忘れずに、だが。


『てめーの方が入院してる気がする。確か一回多かったよね。』

「………人間、何事にも気にしないで生きる方が賢明だと思わないかい?」

『人の群れだけを見て咬み殺す輩が何を言うか。あー腹減った』


…ん?今思ったけど、何か前も同じような落ちじゃなかった?コレ。
いつの間にか病院送りって結末じゃないか?コレ。

オイオイオイ、管理人は何?しぇるとか言う何か貝みたいな名前しやがってさぁ、寝落ちと病院送りのネタしか持ち合わせてないの?ねェ。


「いただきます。ちひろのは机の上に置いておくからね、食べたくなったら食べなよ。」


何時の間にやら自分のベッドに腰掛け、手を合わせているヒバリ。

………え、ちょっと待てやチキン。


『何?何の拷問?目の前に食べ物を前にして、私は手足どころか体中動かな…口しか動いてないんだぞ!!オイィィィてめっ聞いてんのか?!こっちは空腹で死にそうなんだよ!!』

「何?」

『何じゃねーよ、今の話聞いてた?!』

私の最初のセリフだけマネしやがって。

「うん」

『……。』

「……」

こいつっ…なんてあからさまに嫌がらせをする奴なんだ、いや、あらかま…あれどっちだっけ。まあいいや。

見てみろ、チキンの顔を。笑ってるんだぞ口元が。そんなに私を見下したいか?あん?


「人にモノを頼むんだったら言い方があるんじゃないの?」

『ふっ…その言いぐさは私の性格を知っての事か?』


私がモノを頼む?
冗談じゃねェ、いくらこの私だってガラスのように硬いプライドってもんがある。
そんな食物ごときで…ハンバーグごときに、この私が屈するなんて…うおおおおおおおっ!!!


ぐるるるるるる



『食べさせてくださいお願いしまっ…んぐっ!!』


言った瞬間、口の中にはピーマンというなんとも宇宙人のような名前をした緑色の緑ほにゃらら野菜を、しかも大量にスプーンの上にのせて突っ込まれた。

私の一番の天敵というのも彼は知っているはずなのに。


「どう?おいしいかい」

『―――ぅっ、てめっ退院したら覚えとむぐっ!!』



今日の絵日記。
「ぴーまん」は人を殺すほどの殺傷能力を秘めていることがわかりました。食べ終わった後、ヒバリの包帯の数を増やしてやりました。何故だか心が晴れ晴れとします。上空ではそんな私を祝福するかのように、コンドルが舞っていました。ぷーくす!!




――後日
「よお、ちひろ。お前リング戦の時大丈夫だったか?」

『テメーに心配されるほど落ちぶれちゃぁいねェ。つーかなんで笑いながら心配の言葉を口にしてるんだよ、帰れ。』

「恭弥がよぉ、お前が四階から落ちた時ギリギリ滑り込んでキャッチしたんだぜ。」

『その割には私は全身打ち身で入院したけどな。跳ね馬帰れ。』

「まぁ受け止めたはよかったんだが、流石に耐え切れなくてな…手からお前が滑り落ちたって話だ。」

『頑張れよヒバリー…ん?耐え切れなくなったってどういうことだコラ。私の体重の事だな、失礼な奴め。お前は帰れ。』

「でもよ、恭弥がいなかったらちひろは死んでたかもしんないんだぜ。変な見栄張ってんのか知らねーが、感謝の言葉ぐらいかけてやれよ。」

『…てめーは何もしなかったろ、帰れ』


じゃあな、と手を振って彼は去って行った。
…結局何しに来たんだろう。

跳ね馬のくせにムカつく野郎だ。




感謝、ねェ。ちくしょう。てめーがそんなこと言うから、もっと行きづらくなっただろーが。
このくそが。
そう悪態をついてから、ふと私の足はある部屋に向かって行った。


「ん?何の用だい」

『……ふん、この間の礼だ。素直に受け取れよ。』


これが私の感謝の気持ちが籠った、ハンバーグじゃぁぁぁぁぁ!!!


「…これが、ハンバーグ?僕の知っているものとは程遠いね。」

『何を言っているんだい?どっからどう見ても“ハンバーグ”さ!!』

「五文字のカタカナを紙に書いただけのお札なんて僕は認めないよ」

『センスがキラリと光ってるだろ?!』

「帰れ」

冷たい視線で私のハートはブロークンさ!!!



『…………もう私を落っことすなよ。』
「…フン、さあね。」




………ありがとう。
…どういたしまして。




二人の交わす、言葉の裏。

――リング戦編 Fin――


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