075 世話好きな奴ほど空気な奴はいない。
『センヒャクニジュウイチーッ、ニーッ、サァーンッ!!』
ブンブンと幣を素振ること、二十分。事態は新たな展開を迎えていた。
「よくもカスの分際で…許さねぇ…!!!」
なんとチェルベッロがお仕事お疲れ様です、と差し入れにプリンをくれたのだ。
匂いからしてこれは並盛神社周辺のコンビニ、スーパーマーケットにはないモノ。おそらく私が最近ママンの料理を食べることによって舌が贅沢になり、ママンの手作りプリンぐらいしか口に入れることができなくなってしまったのを見抜いていたのだろう。 聞けばフランス製の高級プリンだというではないか。プリンの本場がどこかは知らんが、何とも美味であった!!余は大満足じゃ!!
ふと、その幸福を邪魔せんばかりの声が辺りに響いた。視線をそこへと移せば、マジ切れして古傷を浮かび上がらせたザンザス君の姿。
ワォ、真っ黒のスス…じゃないな、炎だ。アレ。真っ黒くろすけがでてきそうだ。
確か…奴がキレたのって私がPSPを壊したとき以来じゃない? ああ、そのまま日本に逃げ帰って来たからわかんねェや。
「あれは怒りだぁ…」
「!!」「こ…この声!!」
『おうおう、どーりで姿が見えねェと思えば』
下まつ毛の部下に拳銃を向けられ、全身は包帯でグルグル。
見た目重症っぽそうなのにも関わらず、両手両足を車いすに縛り付けられている。
何?この猛獣扱い。私でもちょっとかわいそうだと思っちゃうぜ。
『スクモ「スクアーロ!!」…そうそう、それ。』
ふむふむ、話を聞くに、空気山本に負けた哀れなスクアーロ氏は同種族のサメさんに食べられそうになったところを、助かったと。
共食いじゃねーか、カニバリズムか。
『とんだ死にぞこないだねェ。あれだけザンザスの傍にいたくせに、あの山本に負けるなんざァ、なぁマグロのカルパッチョさん。』
「ちひろ、かぁ」
そういやこいつとはヴァリアーん中じゃぁ一番世話(迷惑)かかってたんだよな。 マグロのカルパッチョ、奴のは絶品だったのを記憶している。つーかそれしか覚えてねェな。
「……食いてぇんなら、また作ってやるぞ……ってお゛い゛い゛い゛い゛!!!」
『死にさらせェェェ!!!』
しんみりとした空気がちょっとイラッってきたので、スクアーロに向けて幣を振り上げる。 まあどうせガードするから大丈夫かな、とか頭の隅で考えていたら、そういえばコイツ、手足拘束されてたから防御は無理だったね。
『っ、く』
ギリギリ奴の頭上一センチ手前のところで幣を止め、パサリと何枚もに連なる幣の白い紙を振りかけてやった。
『フーッ、あっぶねぇな、九死に一生を得るとはこの事だ。もうちょっと気ぃ付けろよ』
「う゛お゛お゛お゛お゛い゛!!その原因を作った奴が何をッ…ぐっ!!!」
あらあら、叫んだら傷口が開いちゃったね、YOU!!
『でも感謝しろよ、これでさっきより体のだるさは抜けたはずだ。』
この技は前、ヒバリが病院に入院した時に行った技だ。
題して、“………えーっと、長くて名前忘れちゃったけど、死なないように気を付けなきゃダメだよ(てへぺろ)”じゃぁぁぁぁ!!!
「いいぞぉ…その怒りがお前を強くする」
『!?』「!!」
聞いてないね、私の話。これっぽっちも聞いてねェ。
目の前のモニターに映るザンザスに夢中ですか?あ゛あ゛ん?!
「その怒りこそがお前の野望を現実にする力だ」
古傷が浮かび上がり、本気で怒り、戦う彼の姿を私もモニター越しに見やる。
そういえば、八年前
「その怒りに」
初めて彼を見たのはこの姿
「オレは憧れ」
私には寂しさを背負っているようにしか見えなくて
「ついてきた」
せめて、紛らわせてやろうと、ゲームを持ち出したんだ。
『なぁ、枝分れまつ毛野郎』
「なんだ、カスチビカス」
『(カスとチビのサンドイッチか)…PSP、やったことある?』
「………はっ」
結果、並盛ちひろ174勝0敗1引き分け。
『プッ…』「かっ消す!!!」
back
|
|