070 この世の中、ノリですべて生きていける
『いや〜大変なことになっちゃったねェ、…ふぁ〜あねむっ』
パシャリ、とあったかいお湯の水面を軽くたたくけば、心地よい音が鳴る。
あり、シャンプーねェや。
『ヒバリーンゴ、シャンプーそっちにない?』 「……。」
返事がない、ただの屍のようだ。 と思ったら襖を突き破って、ツゥバキィが濁った温泉のなかにドボンと投入された。
なんだい今のは、もうちょっと優しくできねーのか…あーあ、今ので中身がちょっとお湯ン中に混ざっちゃったよ。
『ねェヒバリ。』
襖の向こう側にいる彼に話しかける。
『ズバリ、明日の勝算は「あるよ。」…おおっとヒバリ選手、即答しましたねー』
ツゥバキィのチューブを押せば、ニュッと乳白色の液体が垂れた。 頭につけてシャカシャカと泡立てようと思ったのだが…いかんせん片手にツゥバキィを持っているせいで、手の動きが制限されてしまっている。
『ヘッヘルプミー!!ヒバリ!!』
ガラッ!!
…ピシャッ!!
『オイィィィィ!!!テメェ何で閉めた!!ちょ、マジで助けて!!泡が垂れて…目がっ目がァァァァァ!!』
あれ、走馬灯が見える。あーさっきのチェルベッロ達だー
“明晩、お集まりください。巫女様も同様です。”
ウフフーまだあの人たちは私の名前を憶えてくれないんだぜ、ウフフフフ
ザバァァァァ!!
「戻っておいで、ちひろ」
頭の上からお湯が降り注いだ。
おっと、危うく黄泉の国へフライアウェイするところだったぜ。 後ろを振り返れば、いつもの普段着ではなく、終身様の…間違えた、就寝用の浴衣を着たヒバリの姿。
『…なんでパジャマなのさ』 「今日はここに泊まらせてもらう。草壁から許可もとったし。」 『私がこの家の大黒柱なんだけど。』
よいしょっと湯を囲っている平べったい大きな石の上に座り、私の両腕を挟むかのようにくるぶし辺りまで足を湯につけた。 …ここは足湯じゃねーんだぞ。
「今までたまってた仕事をここに置いて、跳ね馬を咬み殺しに行ってたからね、今日中に終わらせないと。」
シャカシャカと頭の上で自分じゃない指先が動いていく。 どうやら頭を洗ってくれるらしい。
…ありがたいんだけど、なんかこそばゆいな。変な感じだ。
『あーそこそこ…んで?本音は?』 「家の鍵を学校に忘れた。」
ワォ。
『バカなのヒバリ、私でもンな事したことねーよ。』 「ちひろの家は年中解放されてるからね、鍵なんかないんでしょ。」 『あるさ!!私のプライバシーという心の鍵がな!!』
あ、今私すごいうまいこと言った。
「腹立つ」 『あ、もしかして私の入浴シーンが見たかったんだろーヒバリのエッ…痛い痛い!!ツメ立てんなよ!!』 「君の無い胸を見たって何とも思わないよ、むしろ見てあげたんだから金を請求したっていいぐらいだ。」
『はいっドォォォォン!!!!』
手を動かしていた彼の腕を掴み、私はヒバリを湯に叩きつけてやった。
浴衣濡れちゃったけど…やったね!!
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