003 ハゲてる人って教師をやると多くが生徒から馬鹿にされる可能性が高いよね
「えっと…並盛…さん?」 『ん?なんだよ、ダメツナ』 ふぁ〜あ、とあくびをして右の席にいるダメツナの方向へと首を傾ける。すると彼は、ヒソヒソと小声で話しかけてきた。
「あの、何してるの…?」 『あ″見りゃわかんだろ』
机の上に足を投げ出し、先ほど肩にかけていた学ランを膝の上にかけて布団の代用品としている。ちなみにこの学ランは昨日のクッキーのお詫びと並中転入祝いを兼ねて、ともらったものだ。ヒバリのお古らしい。 手は頭の後ろで組んで、枕替わりといったところだろうか。
『睡眠学しゅ……』 「ゴラァァァァ転入生!!沢田!!今何の授業してんのかわかってんのか?!ああ゛?」
私の言葉を遮るように、汚い唾を飛ばしながら叫んでいるのは髪の毛が残念な程、見事に禿げあがったおっさん。ダメツナいわく、並中の中で怖い教師、トップ5に入るらしい。誰だよ、そのランキング作った奴。
「ひぃぃぃぃぃぃ、すっすみません!!ほら並盛さんも謝って!!」
そんなおっさんの剣幕にビビったのか、私の隣に座るダメダメな彼はビシィィィ、と漫画の効果音が付きそうな勢いで頭を直角に下げた。 私は学ランのポケットから分度器を取出し、測ってみる。
『すげー、マジで90度ピッタだ。ダメツナ、あんたいい感じの平社員になれるよ。お客様にクレームつけられたらそれで謝ればいいんだもの』 「ちょっと並盛さん、なにそれ、けなしてんの?褒めてんの?」 『褒めてるわけねーだろ、馬鹿』
「………並、盛だと?」
ピクリ、とおっさんが反応した。私やダメツナ以外も顔をあげて、彼のほうへと視線を向ける。 「てっ、転入生…お前、並盛家の、並盛巫女の…娘かっ!!」 「並盛…巫女?」
あららら、あんまり言いたくなかったのに転校初日にあっさりとばらしやがって。 何が何だかわからない、とでも言うようにダメツナや他の皆が今度は私に視線を向ける。だから嫌なんだ。学校って。
その眼は昔の、周りの人間の持つ疑いの眼。ダメツナと彼らの持つ意味は違っていても、私としては同じ。不愉快極まりない。
『おっさん、あんたのその頭を見てると私の目に害があるようなので、屋上でサボ…保健室に行ってきます』
よっこらせ、と我ながら実にオヤジくさい言葉を吐き、机から立ち上がった。ひざ掛けとして使っていた学ランを肩にかけながら、私は教室の戸に向かう。
『あ、そうそう。おっさん』 くるりと体を回し彼と視線を合わせると、ビクリと体を強張らせ少し後ずさった。顔も少し血の気が引いているのか、青白い。 やれやれ、こんなのが教師とは。とんでもないチキンだ、先が思いやられるぜ。
『次、その名を口にしたら、ケツにゴットトルネードの刑に処すから。覚悟しておけよ、軍曹ォォォォォォォォォ』 「誰だ、軍曹って」
バンッと扉を叩きつけるように閉め、私は重たい足を引きずるようにして、屋上へと急いだ。
ゴッドトルネード用の団扇を片手にもつのも忘れずに。
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