055 何事も真剣にやればなんとかなる。
『うおおおっ!!くらえェェェ!!“巫女神楽”――庭火ィィィィ!!』
ドゴォォォォン!!
バシャァァァァァ!!
水柱に幣を叩きつけた衝撃によって大きな、それこそ大の大人を襲うほどの波をたて、それは真っ直ぐに奴を目指して襲いかかる。 まるで津波のよう。
が、流石一筋縄では行かない相手のようだ。
振るった鞭でその巨大な波をかき消したかと思えば、それはすぐに大きくうねりながらも奴の相手の獲物―つまり私の幣へと狙いを変えた。
『からの〜……幣(みてぐら)ァァァァァ!!』
瞬時に幣でもう一つの水柱をつくる、と同時にその反動をつかって私は一気に宙へと跳躍した。
「何っ?!」
鞭で絡め取ったと思ったのだろうが、自分の武器に手ごたえのなさを感じ、下まつ毛野郎はバッと水柱の上に立ち幣を振り上げている私を見上げた。
『死にさらせェェェェェェ!!』
時すでに遅く、奴は私の渾身の一撃をモロに受け、幣を地面に振り下ろした衝撃により辺りの水は飛び散っていった。
「ゲホッ…あっぶねェーもう少しずれてたら直撃してたぜ。」 『…チッ、でもコレで倒した事になるだろ?なかったら今までの努力がパーだよ。夜中の三時まで昨日ずっとこの技練習してたんだから、寝不足なんだから。だから倒した事になんなかったらお前を叩き殺す。』 「恭弥のがうつったか。」
「どうだ?ボス。」
ロマーリオがニヤニヤしながら、へにゃりと座り込んでいる彼を覗いた。
「ちっ、しょーがねぇ負けは負けだ。しっかしよくこれだけの短時間で成長したもんだな。」 『えーあんたを叩きのめしたくて成長したんじゃんか――それじゃあ私は当初の目的を果たすとするか。』
ずいっと倒れている跳ね馬に私は顔を近づける。
「なっ…なんだ…?」
奴の上に馬乗りになっているため、彼はもう動けない。
金色の瞳――
髪の毛と同色のそれに、私はすっと手を伸ばした――
「っ!!」ブチッ!!
『下まつ毛とったどーー!!』 「おめでとうちひろ、念願の夢がかなってよかったね。」
とてつもなく棒読みのほめ言葉、どうもありがとうチキンバード。 いやーフィールドが川でよかった。なんか戦いやすかった、っていうか技が水のある場所でしか使えないものばっかりだったからな…
“巫女神楽”――先程使った技の[庭火]や[幣]は我が並盛家に代々伝わる門外不出の技の一つ。…つーかもんがいふしゅつって何?
なんか先代の巫女さん(母上)がこんな感じの技を繰り出していたのは記憶していて、今回はそれを見よう見まねでやってみた。そしたらなんか成功しちゃったよ!!
…そう、あれはたしか私が母上のプリンを食べて怒られたんだ。 結構昔、私が四歳ぐらいのときだったか。 おやつの三時が過ぎて私のお腹のなかで冷えたプリンがダンスを踊って腹壊しているときに(かなり痛かった)、母上はノコノコやってきて冷蔵庫の前でいきなり立ちつくしたかと思えば、幣を持ってきて技をかけていった。
お腹の痛みが吹っ飛ぶくらい、痛かった。
川の水の代わりに、彼女は水道の蛇口からでる水を使ってたもんだから、大したもんだと思う。
ミ〜ドリ〜タナ〜ビク〜ナーミーモーリーノー… ピッ!!
「もしもし…うん、わかった……へぇ」
おやおや、ひばりんお電話ですか。 おい、何で最後の方不機嫌になった? ピッと通話ボタンを押して携帯をしまう彼は、いきなり跳ね馬の上に居る私の腕をつかみ、引っ張って歩き始めた。 しかも、なかなか早い。
『どーしたヒバリ、何事?』 「…草壁から連絡がきた。並中に不法侵入者がいるらしい。咬み殺しにいくよ」 『どーやって?』
私は辺りを見回す。 小川が流れる奥深くの森。 竹藪が大半を占め、緑が豊かなところだが並盛へと帰る道筋などどこにも無……
バラララララララッ!!
「これで」
なんて風景があっていないんだろうか。
頭上から大きな音が降るように鳴り響き、なんかどっかで見たことがあるような黒いフォルムが緑の中から姿を現した。
『………………うん、わかった』
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