048 ふて腐れるとのどが渇く。
ヒュオォォォォォと少し冷たい風が吹き抜ける。 冷えたコンクリートの床、四方を囲む針金のフェンス。
その中で緊迫した空気を漂わせる二人を、私はママン草壁と一緒に買ってきてもらったソフトクリームをペロペロと舐めていた。
私はパイン事件以来、チョコがトラウマになってその味は食べられなくなってしまったので、ちょっとシャレオツなバジル味。 そしてママンは本場の味を再現しました、と看板にかいてあったフランスパン味のソフトクリームだ。
すげーよな、今の時代。こんな味が世の中に出回ってるんだぜ。パンナコッタ!!
「ちひろさん、どうやら始まるようですよ。」 『おっ、睨みあいは終わったか、このバトルマニアが。』
ソフトクリームから視線を移しかえる。
「学校の屋上とは懐かしいな、好きな場所だぜ。」 金髪のにーちゃんが愛想よく笑う。 「だったらずっとここに居させてあげるよ。」 一方、黒髪の中坊は不機嫌そうに目の前に居る彼を睨んだ。
膨れ上がる、殺気。
ピリピリと皮膚が感知しあう、この感覚。
――ヒバリの、空気だ。
「はいつくばらせてね」
ダッとヒバリが駆け出し、獲物に向かってトンファーをふるう。 まずは様子見、と言ったところだろうか。 両手を駆使してトンファーという扱いにくい武器によって、猛烈な攻撃を繰り出すチキンと、それを軽く受け流すかのように避けていく金髪の兄ちゃん。
「!!」
それは一瞬の出来事だった。 ヒバリは下から上へとトンファーによるアッパーを繰り出そうとしていた。しかし、金髪の彼はそれを見切り、持っていた鞭を使ってその攻撃を受け止めたのである。
「その年にしちゃ上出来だぜ」 「何言ってんの?手加減してんだよ」
軽くドヤ顔でヒバリは言い放つ。 が、多分その言葉はウソではないだろう。 そう言った瞬間に彼は鞭で防がれていない方のトンファーで、一撃をくらわせる。 それをまた避ける金髪下まつ毛だったが、動きをよんでいたのだろうか、ヒバリはキュッと足を軸にして体をひねり、横から顔面にトンファーをたたきこもうとした。
しかし、腐っても彼はマフィアのボス…だとママンが言っていた気がする。
その殺気に気付き、体を一歩後ろへとさがらせたがピッと武器は彼の金髪に掠り、ハラリと髪の毛が数本空中に舞った。
「しょーがねぇ」
何を思ったのか、やっと下まつ毛野郎は鞭をビュッとヒバリに軽く振り上げた。 ヒバリはそれをいとも簡単に避け、彼に突進していく。
「死になよ」
彼がトンファーを振り上げた、その瞬間――
「『!!』」
ヒバリの武器は後ろにある、水のタンクのハシゴから伸びる鞭によって絡めとられ、動きを止められていた。 それを操っているのは金髪の、彼。
「お前はまだまだ井の中の蛙だ。これからもっと強くなってもらうぜ、恭弥」
…は?
恭弥?出会ってものの数十分で恭弥?うおう、寒気がするぜ…なんかムカつくな。
「おや、ちひろさんどちらへ?」 「……アイス食べ終わったから、帰る。」 「え?!ですが、クッキーがまだ…」
ママンの焦り驚愕し引き留める声を無視して、私は屋上の戸を開けて階段をかけおりていった。
「…?」
「ってーお前なぁ!!…ん?どうした」 「…別に、さぁ続けようか」
―――ちひろ…?
back
|
|