032 やっぱり膝枕って太ももが結構つらいんだってさ。
「うまそうな群れを見つけたと思ったら、追跡中のひったくり犯大量捕獲。」 「ひっヒバリさん!!」
ビュッと大きくトンファーを振るい、付着した鮮血を薙ぎ払う。 珍しく嬉々とした笑みを浮かべ(私にはそう見える)そんな彼の足もとにはヒバリの手の内にある武器の餌食になったのであろう、褐色の肌の男が数人、苦しそうにうめきながら転がっていた。
『おーこれがママンの言っていたひったくりか。なんか獄寺よりチャラくねーか?』
「ちひろちゃん!!」
私はそのうちのチャラ男Aの長い金髪をつかみ、無理やり顔を上げさせた。
何だ、ダメツナもいたんか。何?店の金をひったくられた? バカだろ、なんでそんな簡単にとられるかなー
…ん、あれ、コイツどっかで見たことが… ボコボコに咬み殺されたチャラ男Aの顔をもう一度よく見てみる。 思い出せ、お前ならできるはずだ並盛ちひろ、ダメだ残念ながら思い出せないププッ。
「たった数人のガキか。」 「おっ、女もいんじゃん。」
いつの間にやらぞろぞろと神社の木の陰から同じような面をしたチャラ男共が、私たちを取り囲むようにやってきた。
「ヘッヘッヘッ、じゃあ俺あの女をテイクアウトで」
その言葉を聞いた私は、その男をビシッと指さしてやる。
『バカだなお前!!テイクアウトってアレだぞ、脱ぐって意味なんだぞ!!知ってたか?!』 「な、何だとォォォォォ?!」
ショックを受けるチャラ男B。
フッ、これは私の頭脳の勝ちかな。君たちとは所詮、ここの構造が違うのさ(頭を指さす)出直してきなさい、坊や。
ガクリと膝をついた男を私は腕組みをして見下してやった!! やったね!!
「バカなのは君達の方でしょ。“脱ぐ”はテイクアウトじゃなくてテイクオフ。」
『「なっ何だとォォォォォ!!!」』
ヒバリが淡々とした口調で言い、今度は私も膝を地面につけてガクリのポーズをやるはめになるとは。 くっ、なんて奴だ。ひばりん…そのさけずむような目…パンナコッタ!!
「相手は中坊だ!!やっちまえ!!」
主犯格であろう金髪+なんか黒いティッシュ…じゃねーやメッシュをヘアースタイルに取り入れた男が周りのモブのチャラ男達に指示を飛ばす。 …ついでに唾も飛ばしやがった。きったねーな。ここは神聖な神社だぜ。
襲いかかってくる男どもの攻撃をひょいひょいっとかわしていけば、向こうの方でヒバリが自由に咬み殺してる様子が見えた。
「冗談じゃない、ひったくった金は僕が貰う。」
おいおい、向こうの方で戦いながら醜い金銭の応酬が繰り広げられているらしい。 チキンさーん、瞳孔が開いてますよー
やれやれ…フッそれにしても私、えらくね?だって、相手を傷つけて無いもの。避けてるだけだよ、すごくね?
これでこいつらの咥えている煙草が神聖なこの土地に落ちてたりなんかしたら、いくら私でもキレて―――
その瞬間、目の前の男の口に咥えられていた煙草が、まるでスローモーションカメラで撮影したかのように、ゆっくりと目の前で落ちていくのが、わかった。
「……ちひろ?」
そこからは何も覚えていない。 気が付いたら温かいウチの学校の制服を着た背中の上にいた。
幣を持った右手が少しジンジンとしびれ、体はいつもよりも疲れているような感じがする。 そんな私の足を持ち、上下にゆらりゆらりと揺れながら歩いているのは――
『ヒバリ?』 「…起きたかい?」
『ひったくり犯は?』 「もちろん捕獲したよ。風紀委員を呼んでおいたからね」
ふぁーあとあくびをして、体を伸ばせばヒバリは私の足を持っている手を、パッとその場で離した。
ドサッ!! 『うげふっ!』
もちろん何にも捕まっていなかった私はそのまま垂直に落ち、なんとも奇妙な声を出してしまった。 ちくしょー何すんだこのチキン!!
ムカついたのでヒバリに殴りかかろうと、体に力を入れようとしたその瞬間、ビキッと体中に何かの音がして、鋭い痛みが駆け抜けていった。
『いっ…痛い痛い痛い痛いィィィィィ!!何コレ、ちょっ…マジで痛いって!!』 「そりゃあね、普段動いてないのにあれだけ体を動かしたんだ。筋肉痛ぐらいなるよ。」 『は?これ筋肉痛どころの痛みじゃねーぞ』 「それにしても驚いたよ。君があんなに喧嘩ができたなんてね…ねぇ今度ちょっと咬み殺…武器を交えないかい?」 『今、咬み殺すって言った?おい。つーか記憶無いんだけど、私さっき何してた?』 「チャラ男共を武器で蹴散らしてたでしょ。」
おおう、そんなことをしていたのか。 もはやこれ、お祓いの道具じゃなくなっちゃったなー
私はヒラヒラと風によってなびく幣を目線で追った。 ちなみになぜ目線でしか見れないかって言うと、首が痛くて動かせないからさ!!
そしてヒバリよ。私は喧嘩をしていたのではない、神社という神聖な場所を汚す彼らに制裁を下していただけなのさ!!
「中二病棟、入院おめでとう。」 『オメーに言われたかねーよ。末期患者が!!』
よいしょっと座り込んだヒバリは、隣に座る…と思いきや、あの無駄にフサフサした真っ黒な髪の毛が生えた頭を、へたり込んでいる私の太ももに乗せ、ゴロリと寝っころがった。 …パンナコッタ!!膝枕がこんなにつらいだなんて!! アイ・ドント・ノウ!!私は知らなかった!!
「たまにはいいでしょ。逆でも…それに」
ホラ、とヒバリが指さした先にはちょうど花火が開花する前の種がちょうど、夜空に打ち上げられているところだった。 ヒュルルルルと間抜けな音が響いたかと思えば、バァァァァンと色鮮やかな大輪を次々に咲かせていく。
そう、間抜けに…まぬけ…まぬ…ま、間抜けと言えば獄寺…そういえば。
『ヒバリは間接キスとか、興味ある?…つーか、気にしてる?』
ふと、奴が言っていたあの言葉を思い出す。
「…別に。」
花火から視線を外さないまま、ヒバリはそうつぶやいた。
『…だよねェ』
そう、別に気にしてなんかいない。
今みたいに、こんな風な気持ちになるのは獄寺にそれを指摘されたからであって、言われなきゃ別に何とも思わなかった。
気にしてなんか、ない。
そう自分に言い聞かせて、真っ黒な空を見上げた。
何かが心の中に引っかかったような気持ちになったが、一瞬の出来事だったのでほおっておこう。
「フィナーレだね」
さっきまでは一つづつ打ち上げられていた大型の花火が、こんどは連続して咲き乱れる。 一瞬にして、空は花火畑と化してしまった。
…つーかフィナーレ早っ
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