027 真っ赤な海にバタフライアウェイ!!
『ペッ、海水しょっぱっ!!想像してたよりかなりしょっぱ…』
ドッと波が頭で押し寄せて、口の中になんとも言えないような味の液体が入り込む。 慌てて呼吸をしようと海面に顔を出すが、すぐにまた大きな波が押し寄せ、ほんの少ししか息ができない。 おまけに着ていた学ランが海水を吸って、とんでもなく重い。体を動かすのでさえも体力がすぐ消耗してしまう。
あ、やべっ足つりそう―――
ここは沖の方の海。 元より背の低い私が地に足をつけることはなく、そのまま沈んで――
ザパァァ!!
『ゲホッしょっぱっ、ここの海水の塩分何%だよ』
あ、今の発言ちょっと頭のいい子が考えることじゃね?私は頭がいいんだよ!!
「やっぱり助けない方がよかったかな」 『あっウソだよ、ヒバリン。ミッションコンプリッガハッゴホッ』
おっと、むせちまったぜ。
抱え込むようにして、息ができるようにと自分の肩に私の頭をのせて海から引き揚げてくれたのはフワフワな黒髪が今日はワカメみたいになった、あの人物。
「…ちひろはバカだね」
そう、ぼそりと彼は呟いた。
ぎゅっと私を抱えているその腕に力がこもった。
…冷たい海の中なのに、温かい。
私の学ランは海に流されていったのか、いつのまにかなくなっていて、ずぶ濡れになったヒバリの背中に腕をそっとまわせば、ほんわかと体が温まっていくような感覚に陥る。
チャプン、と波がはねた。
「ほんとに…馬鹿だよ」
「脱いで」 『おいおい、ヒバリ。ついに君は一線を越えてしまったのかい。あの純情だったころの貴方はどこへ行ってしまったの?!あのころのヒバリを返して!!』 「バカじゃないの」
ヒバリに抱えられたまま、私はビーチから少し離れた小島に上がっていた。
ポケットに入っていたスルメを口に入れると、いい感じに塩味がついていて結構おいしかったりする。 水に濡れて弾力感がなくなってしまったことは残念極まりないが。
視線を目の前のヒバリへと移せば、今まで着ていたずぶ濡れの服を脱いで雑巾絞りのように絞っていた。 つーかお前も下に水着着てたんかい。 泳ぐ気満々じゃねーか。
私はスカートを渡して、ワイシャツも脱ごうと思いボタンをはずせば、当たり前だが水を含みぴったりと肌に張り付く呪われて外せない装備を装着していた。
「何…もしかして、脱げないのかい。ちひろ」
半分バカにしている口調でヒバリは私に近づいてくる。 うっわ、ドヤ顔ムカつくーでもそれ以上にワイシャツの方がムカつく。 いつまでもネチネチと張り付いていやがって、姑かコノヤロー
ワイシャツに愚痴を言っても返事が返ってくるはずも無く(返ってきたらそれはそれで怖いが)、ヒバリは私の襟首に手をかけてその白い布をひっぺ替えしていった。 フーやっと解放されたぜ、姑から逃げてきた嫁さんの気持ちが今よくわかるよ。
そう、腕で額の汗を拭うフリをすれば、ビュゥゥゥと強い風が吹き抜け、私はへくしっとくしゃみをしてしまった。
「…。」 『あり、どうしたヒバリ。背中になんかついてたか』
後ろの方で固まったヒバリ。背中に届く範囲で自分の手で探ってみるが、あるのは水着の紐だけだ。 するとその背中はバサッと濡れた何かによって覆われる。
ヒラリと風に舞う、黒い袖。 そこには海水に浸かっていつもより文字の色が濃くなった“風紀”の二文字が。
「そろそろ草壁が迎えに来てくれる…それ、着てなよ。風紀が乱れる」 『あ?つまり何?私の水着姿が目の害になるとでも言いてぇのか』
テメーも海パン一丁の癖によォ。
イラッときて近くに転がっていた岩の塊を彼の頭めがけて投げれば、どこからだしてきたのか、仕込トンファーで打ち返されてしまった。
野球用語で言うのなら、ホームラン。
形を崩さずに飛んでいく岩の塊は、私の頭の上を通り越し後ろの岩の山を越えて海へ―
「いでっ!!」
…おっとォ、人の声だと?
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