021 月に夜桜に日本酒ってなかなか風流な感じがする。
真っ青な青空に半透明の真っ白な雲がゆるやかに、風に吹かれてながれ、数多くの大木からなる桜並木がザワリとさざめき合い、薄紅色の花びらを散らす。
そのうちの一つが、お猪口に入っている透明な液体の上にヒラリと落ち、浮かぶ。
『おー、マンガみたいだな。風流だねぇ…これで夜桜に月だったら最高だね!!』 「…まさか、君の飲んでるその中身、お酒じゃないだろうね」 『さあ?』
グイッとママンが持ってきた透明な液体を飲み干せば…あり、ただの水じゃねーか。 ちっ、酒だと思ってちょっと期待したんだが、その辺は抜かりないんだなー
フーと息をついて桜の幹に体を預ける。 背中にあたる大きな大木。この木がここまで育つのに、どのくらいの年月が経過しているのだろうか。 そっと、その幹に手を触れれば冷たくはない、けれども温かくもない、不思議な温度が指先を伝った。
…癒される。
そういえば、私は前にヒバリに並盛町が好きだと宣言したことがある。
その言葉は嘘ではない。でも、その時は好きでなければいけない、という何かの縛りみたいなものが心の中にあった。 嫌いだなんて、口に出しちゃいけない。そう思ってもいけない。 なぜだか知らないが、昔から誰かに教えられるわけでもなく、自分の中でそう、思うようになっていたのだった。
「ふぅん、じゃあ今はどうなんだい?」 『今は、本当に並盛が好きだよ。特に自然、やっぱり日本はいいねぇ〜イタリアじゃあこうはいかないわ。』
ヒバリに心をのぞかれたのか、それとも私が口に出していたのか。 どちらにせよ、その事実を知りたくないのであえて私はスルースキルを発動させました。
隣で同じように体を桜に預けているヒバリを見ると、ママンから手渡されていたお重を開いて、苺大福を頬張っていた。 ちくしょーうまそうだな!!これ見よがしに白い粉のついた餅とあんこと苺…うわーっ!!
『一口ちょーだい、桜モチあげるからさぁ…あれ、全部くれんの?』 食べかけの苺大福を手渡されてガッツポーズをすれば、ヒバリは心底呆れたような表情を浮かべた。…なんだその眼は、失礼な奴め。
「ちがうよ、向こうでちょっと騒がしくしてるから持っててくれるかい。決して食べちゃダメだよ。それは僕のだ」 『へいへい、わかったよ。いただきまーす!!』 「……まぁ、いいや」
よいしょっとヒバリは腰を上げて、学ランの風紀の文字が軽く揺れた。
…今度ママンに私の腕章も作ってもらうか。文字はどうしようかな、“お菓子”?いや、二文字の方がいいよね…睡眠?!あっ、“睡眠”ってよくね? ナイスゥアイディ〜ア!!天才だぜ、私!!
テンションが上がったところで、私は手に持っていた桜モチと苺大福を口の中に放りこんで、ヒバリの後を追った。
…持っててって言われただけだもん。ついてくるななんて言われてないもん。胃の中にちゃんと苺大福を収容させてるもんね!!
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