復活 | ナノ




 
 
 
017 わかりやすい奴って大体バカな子が多い。



「生チョコにシュークリーム、クッキーにドーナッツ」

よくもまあ、これだけのものを持って、しかも手作りでこの僕の学校に来るものだなと自分の近くに積まれている段ボールの山を見て、ヒバリは思った。

カラフルなラッピングが施され、多種多様のリボンがまかれているプレゼント。誰かにあげるために作ったのであろうそれは、現在その相手の手元ではなく、応接室に置かれてしかも段ボールの中に乱雑に入れられていた。

数えれば軽く十箱は超える。

これらはすべて、風紀委員が校門の前で持ち物検査を行い、並中に持ち込まれる寸前に没収したものだ。
まあ、2月14日に持ち物検査が行われるのは毎年の事なので、皆カバンの中ではなく、思いもしないような場所に隠して持ち込む輩がよくいる。去年は男子でパンツの中に入れてやって来た奴もいるらしい。もはやバカとしか言いようがないのである。

ここで重要なのは、ヒバリが咬み殺す対象としているのはお菓子を並中に持ってくることではなく、そのイベントによって浮かれた輩が騒動を起こし、並中を傷つける及び風紀を乱す奴らの事。
その予防策として持ち物検査を行っている。そう、アレは単なる予防策にすぎないのだ。

ヒバリは愛用のトンファーを取出し、カチャリと胸の前で構えてみる。

この銀色に輝くトンファーが、紅の鮮血に染まるかと思うと―――草食動物達の群れを狩れるのかと思うと―――高まる気持ちを抑えながらも、ヒバリはニヤリと口角を上げた。
早く、早くその、虱潰しのような時間は来ないのか―――

そう、彼が思った瞬間、応接室の外から何かが近づいてくる音が鳴り響く。

『ヒーバーリィィィィィ!!』

バンッと荒々しく戸が開かれ、というよりは、いとも簡単に壊されてドアはただの木屑と化した。

「…今日は授業に出るんじゃなかったの?」

ヒバリは隙をついて、没収したチョコがたくさん入った段ボールを椅子の後ろにサッと隠す。
別に隠したところで何もないのだが、なんとなく彼女に後ろめたいような気持になったからだ。

『んーそのつもりだったんだけど、朝っぱらからチョコ貰っちゃってさー。ほらっ今日バレンタインデーらしいじゃん?だから…』

…だから?

よっこらせ、とちひろは膝の上に座る。
もはや親子、と言われても仕方がないこの状況。

読者の皆様も見たこと、経験したことがあるのではないだろうか。
日曜日に休みをとって新聞を読みながらゆっくりしていたパパに子供が遊んで、と膝の上によじ登り腰を下ろす、あの光景である。

膝枕は今まで何度もしたことはあるが、膝に座られるのは初めて。少しばかりだが、ヒバリは体を硬直させた。ホントに、ほんの少しだけ。
それでもちひろの背丈はヒバリの視界を遮ることはなく、すっぽりとその体は彼の膝の上に収まっていた。

『バレンタイン、よこせやゴルァ』

ニタリ、と先ほどのヒバリの顔よりも数倍悪人ヅラで、振り返った彼女にヒバリは違う意味で体を硬直させた。

まさか、コイツはバレンタインのプレゼントを渡すのではなく、貰うためにここへ―――?!

『フッ私の鼻はごまかせないよ。教室までココのお菓子の匂いが漂ってきたのさ、いつもは私の事をけなしていたけど、やっぱりヒバリには私が必要な…あー!!ちょっと、何してんだ。このチキン!!』
「何って、窓から没収品を投げ捨ててるだけだよ」
『ざけんな!!大体こんなところから捨てたら校舎が汚くなるでしょーが!!』
「大丈夫だよ、後で草壁に始末させるから。」
『ひでぇ!!』

「ねぇちひろ、そんなふて腐れないでよ」
『ふて腐れて無いもん、全然拗ねてもいないしお菓子も食べたくないもん。フンッチキンなんかゴットトルネードをくらって痔になればいいさ!!』
「今、電話があってね、草壁が君の家でお菓子を作ってくれるそうだよ」
『!!!』
「(わかりやすい…)」

back