009 ベタなことって、あるようでないようで実はあったりする。
「ヒバリはいるかァァァァァァ!!」
バァンッと乱暴な音が部屋中に響き渡り、室内にいたヒバリと草壁はピタリと動作を止め、ドアの方へ振り向いた。
「……なんてベタな」
草壁がポツリと呟き、彼は顔色をうかがうようにチラリと自分の上司に視線を向けた。案の定、自分のしようとしていた事が中断させられて不機嫌極まりないといった表情の彼。 それもそのはず、いつもは寝ているときでさえ警戒を怠らない彼が、草壁という部下の存在を忘れるほどに夢中になっていた――楽しみを一瞬にして他者にぶち壊されたのだから。
草壁はそのイライラが後々自分に降りかかってくるのだろうと簡単に予測ができたため、ハァとため息を零した。
「…何の用だい、笹川了平。僕は今機嫌が悪いんだ、手短に話してくれる」
笹川了平――ヒバリに睨みつけられても動じないこの男は、現在ボクシング部の部長で棒倒しの競技では、一年生でありながらも総大将を任されるほどの実力者。本来ならば今年も大将になるような人物だったが、昨日のA組の会議では別の男がやるという噂が流れていたが――
まさか、自分を大将にしてくれなんて無茶なことを言い出すのではないのだろうな、と草壁は内心ひやりとしていた。
「ウム、では極限に短く話してやろう。棒倒しのB組とC組の総大将がやられた。A組の総大将沢田による作戦にな!!」 「ほう……」
草壁は関心と呆れが入り混じったような声を出した。毎年、そこそこの乱闘はあるものの、総大将が競技前にやられるというのは前代未聞のことだったからだ。
ヒバリは相変わらず、ふて腐れたまま笹川を睨みつけている。
「そこでだ!!オレはA組対B、C組連合の棒倒しを提案する!!」
グッと胸の前でこぶしを固め、力強くまるでゴリラの雄叫びのように、叫んだ。
「うるさ『ウルセェェェェェ!!いちいち喋るごとに叫びやがって!!オラウータンかてめぇは!!ああ゛?!』……。」
ドッガシャァァァァァァァン!! 「うぐはっ」
いきなり飛んできた湯呑が、笹川の顔を直撃し、彼はバタリと倒れた。
もちろん、投げた張本人はヒバリの膝の上で先ほどまで爆睡していた、並盛ちひろである。 ヒバリよりも更に不機嫌そうなオーラを放ち、彼を物凄い形相で睨みつける。
その状況をヒバリと草壁は無言で笹川に憐みの目を向け、徐々に頭のさえてきた彼女が「あれ、誰だコレ」と間の抜けたような声を上げるのは、それから数分後のことだった。
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