復活 | ナノ




 
 
 
008 シリアル?ああ、おいしいよね。…え、シリアス?ウソだろ?!



「ちひろさん、寝ちゃいましたね」

スース―と規則正しく寝息を立てる彼女に、ヒバリが自分の着ている学ランをそっとかけてやれば、ピクリと小さく反応する。彼の言葉で例えるのなら―そう、小動物。
起こさないよう、ソファーに静かに座りなおす彼の姿は、いつも部下たちが見ているような一般生徒たちが恐れている雲雀恭弥ではなかった。

ひょこりとソファーを覗き込む草壁はそんな彼らを見て、クスリと笑みをこぼす。

「……何笑ってんの、咬み殺すよ」
「いえ、あまりにも昔とそっくりだったもので」

あの、“咬み殺す”というセリフさえも彼女の前ではあまり使わない。口では酷いことも言ってはいるが、それには少しの情も含まれていて、ちひろの口の悪さも、彼のそんな優しさが見え隠れしているのを知っているから、ほんの照れ隠しで暴言を吐いてしまうのだ。

草壁はコトリと雲雀専用の湯呑を机におき、彼がそれを口に含むのを確認するとおもむろに口を開いた。
「委員長、例の件ですが。」
自分でも妙に顔がこわばり、真剣な表情になっているのがわかる。
雲雀はそんな彼の様子を察したのか、草壁が手渡したバインダーを受け取りながら眉をひそめた。
例の件、というのは雲雀が草壁に頼んだちひろの家、並盛家および昔の並盛の調査のことだ。

パラパラと資料をめくっていく音が応接室に響く。
軽く雲雀が目を通したところ、ページの中のキーワードとして特に多い単語として“並盛神社”“巫女”“水”の三つ。
「ちひろさんが並盛町の地主でと、その並盛家は並盛神社を持ち代々その家にいる女子は巫女を受け継ぐというのを伝統としています。ですから一人娘のちひろさんが将来的に巫女になるのは、ほぼ確定でしょう。近々その為の儀式が本家をはじめ、分家の方々が集まり、とり行われるということです」
草壁が少し顔を歪めた。

「ただ一つ気になる“水”という単語に関して、風紀委員すべてを使い調べてみましたが、見つかったのは古い文献だけでして……」
「古い文献?」

バインダーを机の上に置き、草壁から手渡されたのは一冊の本。一体どうしたらこんなになるのかと思うほど、茶色く変色し、くすんで汚れていた。
聞けば旧並盛図書館の地下倉庫に、隠されるように眠っていたという。

「そこにはこう書かれています“水の意思に導かれし我が一族、流れに従い、詠み、そして纏え。浮雲に沿いすべてを鎮めよ――と」

まったくもって意味が分からないと、雲雀はムスッとした表情になった。それは草壁も同じらしく、首を横に振る。

「ですが、この話の一族というものをちひろさんの並盛家にあてはめてみますと、“鎮める”という言葉、何らかの争いごとを抑制するという意味にとれます。現に並盛神社の巫女が存在している時期にだけ、この町で起きる喧嘩や犯罪などの事例はあまり多くみられません。」

まあ、関連性があればの話ですから、と付け加えた草壁は先ほどとは違い、穏やかな表情だ。
まだ深く考えすぎるな、と言いたいのだろう。表情で語るというのはこの事だと雲雀は思った。ちひろ程ではないが、付き合いもそこそこに長い草壁には今彼の考えていることは見通されているようだ。

すると、膝の上にいた彼女がゴロリと寝返りをうち、半分は動いた拍子にパサリとかかった髪の毛で隠れてはいるものの、伏せていた顔を露わにした。
幸せそうに眠るちひろに雲雀は目を向けフンッと鼻をならす。

―――やわらかい。

人差し指をちひろの頬に近づけてそっと力を込めると、ふにっとした弾力が感じられた。

その後を引くような触れ心地に、思わずもう一度、ふにっと押してみる。

―――早く起きなよ、ちひろ。

頬杖をつきながら、馬鹿だけれどもそれすら、愛おしいと思ってしまう小動物に彼はそっと、顔を近づける。

――あと、十センチ―

――五センチ―

夢を見ているのだろうか。時々、ピクッピクッと少し長いまつ毛が動き、キュッと僕のシャツを握る手に力がこもった。

――三センチ――
―――二センチ――


――――――……残り、一センチ――――

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