復活 | ナノ




 
 
 
007 幼馴染って使いこなせるようになると結構便利な言葉



森の木々は緑から赤や黄色に変わり、動物たちは冬という長い食糧難の危機に直面しないための食糧集めを行う季節。

……もう最初みたいに“AKI”なんて言わないよ。どこかの誰かさんに殴られるから。
fallseason―さて、人間たちは一体何をするのだろうか。

『体育祭ー?何、そんなだるいのやんの?え?!今日?!』
ポリポリ
「そうだよ、僕は参加しないけど。あんなに群れて何が楽しいんだか」
ポリポリ
「並盛中の超ビックイベントと言えば、体育祭の最後に行われる棒倒しなんですよ。実はその審査を風紀委員が行っているんです。」
ポリポリポリ
『なんでテメーだけポリポリの数が一つ多いんだよ、さては貴様、ポッキーを一本多く食べたんだな?!このふとどき者めが!!』
「違いますよ、二人より咀嚼する回数が多かっただけです。」
『そしゃくなんて難しい言葉を使うんじゃない!!』

……どうも、並盛ちひろです。初っ端からうるさくてすみません。
現在の時刻は午前11:45。もうすぐお昼の時間です。
昨日から何か学校内で騒がしいなと思っていましたが、まさか体育祭だったとは…

つーか起きてから学校来るまで、記憶がないってどーゆーこと?
気づいたらここにいたってどーゆー状況?
リーゼントとチキンに、はさまれてポッキーしてるってどーゆー状態?

「ポッキーは君が食べたいって言ったんでしょ。担任から君が休みだっていうから、バカは風邪ひかないのかと思って君の家まで見に行ったのに。そしたら制服姿で着替え途中に爆睡していたのはどこの誰?」

あきれて物も言えないと、ため息をこぼすヒバリ。一気にまくし立てて喉が乾いたのか、湯呑に入っていたお茶を全部飲みほしたようだ。

『しょーがねーだろ。着替えている途中に睡魔が襲ってきたんだ、私は悪くないね。悪いのはヒバリにチクった担任さ。どうぞ給料の代わりに育毛剤を渡してやって、泣いて喜ぶと思うよ』
「やっぱり風邪をひいているのはちひろの頭の方だったみたいだね」
『ヒバリはいつも一言多いよ。お前はオカンか!!…あれ、もしそうなら草壁とキャラ被ってんな』
「君には皮肉が通じないのかい」

……あれ、ちょっと待てよ。今現在、私は制服をきっちりと着こなしている。だがしかし、パジャマのTシャツの方しか脱いだ記憶はないぞ。
ま、まさか私を着替えさせえたのは……

バッと勢いをつけてヒバリの方を振り向けば、ニヤリともイヤそうな顔もせずに、ただ平然と中に何かが入っている並盛スーパーのレジ袋を差し出してきた。
中身は予想した通りの自分のパジャマが入っていて、ご丁寧にも洗濯とアイロンという技術が施され、新品同様ピカピカのパリパリだった。

「別にいいでしょ、僕とちひろの仲だし」
『どんな仲だよ』
「昔、ちひろの家でお風呂入った仲。」
『………。』

そう、確かに私たちは一緒によくお風呂に入っていた。
昔だけどね!!小学校低学年の時の話だからね!!

『あ、ママンおかわり!!」
勢いよく、お茶の入っていた湯呑をつきだすと、彼は笑顔で受け取ってくれた。
私は優しいママンを持って幸せだよ!髪型はアレだけど、ナイス草壁!!

「そういえば、委員長とちひろさんは幼馴染ですよね」
『おう、親同士が赤ん坊のころから会わせてたみたいで、気が付いたらヒバリがいた、みたいな感じかなー』

コポコポと湯呑にお茶を注ぎながらママンが私に言う。なぜヒバリじゃないかというと、彼はなぜか昔の質問にはあまり答えないからだ。きっと聞くたびに、あのトンファーの餌食になっていたのだろう。

で、私はというと体のでかい草壁がいなくなったので、ここぞとばかりに足をヒバリの膝の上に投げ出し、ソファーの上に体を預けて横になっていた。
しかし、その足をヒバリに強くつねられてしまった為、断念。
仕方がなく自分の頭を彼の膝の上に乗せて、ゴロゴロすることにした。

肌寒い風が吹く秋とは言えど、この応接室の窓から差し込む柔らかな日の光は温かく、枕がわりにした彼の制服からは陽だまりのような香りがして、私はそれが妙に懐かしくて昔みたいに顔を布に押し付けた。

「………。」
『………』
「よだれ、つけないでね」

誰が付けるかバカヤロー

そう心の中で呟けば、頭上に温かい何かが触れる。

じんわりと、そしてゆっくりと私の空っぽだった心の奥底に満たされていくのを感じながら、私の意識は少しづつ薄れていった。


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