101 何事もオチは大切
あーあ、まぁーた夢落ちかァ…
目を瞑って一番最初に浮かんだ言葉が、それだ。 せっかくの修業編だってのにこれじゃあ今までと何の意味もないな。ただ水ん中で溺れて現在進行形で死にかけてるだけじゃねーか。
オイオイオイ、夢小説上そんなしょぼい理由で命の危機にさらされてる主人公なんざ、私ぐらいじゃねーのか。事故とか敵の手によって…とかじゃなくて、自らって…アンタ。ださっ!!!
…あり、自分で言ってて視界が霞んできたや、瞼閉じてるから真っ暗なんだけどね!! よりによって私の…並盛の川の水だとは…そう考えるとなんか自分の首を自分で絞めてるようなもんだね。うわ、何か腹立ってきた。
…そう、だよなァ。少し悔しいなァ
漠然と、そんなことを考える。 ふわふわふわふわ、私の体の自由がきかないのは、この水によるもの。そしてそれは私の管轄のもの。
人だろうと木だろうと、もちろん水だろうと、並盛の名において全ての最高責任者は、この私であるわけで。 自惚れてなんかいねェ、昔から代々そうしてきた。これからも並盛家がすべてを受け継いでゆく。私が責任を負うのは当然の事だ。
ああ、でも。 そんなことより、やっぱり腹が立つ。
―――私の負った責任よりも、覚悟の方が上であることを。 ―――思い知らせたいなァおい
何かが、体中をまるで電流のように駆け巡る。
すると、どうだろうか。
妙に私の体が熱くなるのを感じる。さっきまで停止していた脈が、血が、煮えたぎる。 エネルギーが駆け巡り、波動が全身を支配していく。 満たされた、と思えば、それが一気に放出されていくような感覚にとらわれていく。ゆっくりゆっくりじわじわと周りにソレが侵食し、まるで炎が水自体に練りこまれていくような、うどん粉と水を練ってるような、そんな広がり方だ。
…ちょっと、今の説明ナシな、うどんのクダリは聞かなかったことにしていてくれよな!!!あとからそれを指摘されると…ちょっと恥ずかしい!!
何だろうこの感覚は。手足のように水そのものを動かせそうな気がする。想像するがままに。思い通りに。
『―――廻れ』
右手を少し、真横に水を薙ぎ払うようにして動かせば、ドウッと音が鳴り響き、私はお尻に少しダメージをくらう。
痛い。
目を開けば、少し青みがかった透明な水の壁が私をぐるりと囲むようにして、円柱形になっている。まるで私を避けているかのようだ。 当事者である自分は床に足がついていた。どうやら水が周りから引いた瞬間、落ちた様だ。
手にはまだ熱を帯びたような感覚が幣と共に残っている。
焼けつくような痛みと引き換えに、何かを手に入れたような――いや、痛みだけじゃないのだろう。まだ見えない何かが無くなったような、そんな嫌な予感がしながらも、私は水の壁に手を浸してみる。
なんともモーセの十戒を思い出させるような光景だ。
水に軽く円を描くように手を回せば、それはまるでスライムのようにぐにゃりと変形し、渦潮のように激しく旋回しながら、気付けばぽっかりと穴が開いてしまう。 空気が、できるということなのだろうか。よくわかんない。が、その水の壁、そして穴の最果てには必ず部屋本来の壁、天井が現れる、つまり見える。
『…これ、もはや水じゃねーだろォオイ』
スライムというより、ゼリーみたいな手触りだ。なんかもう、全然おいしそうに見えない。…む!!失敬だな、チェルヴォの体毛が水っぽいからって飲もうと思ってたわけじゃないぞ!!!全然そんなことしたことないもんね!!!彼の蹄が痛かったってのは覚えてるけど。
まぁ今はそんなこと心底どうでもいいんだよね、早くここから出たい。水の壁を作ったって酸素が増えるわけじゃないんだろうな、いい加減呼吸するのが苦しくなってきた。
さて、幣を手に入れ酸素を取り入れた私は、確実に無敵に近い!!!あっはっはっはっは!!!!私は紙だ!!!違う、神だ!!!
ブォンと大きく振りかぶる、すると周りの水が炎のようにまとわりつく。 所々、ピシャッと顔に水が跳ねるのが、少し腹立たしくも思えるし、嬉しくもある。…なんか水に情が湧いたみたいだ。 『…。』 目を閉じて、タイミングを整える。体と心と炎と幣。タイミングが合わないと動きにズレがでて、イマイチ威力がなくなるという。(とヒバリがなんか言ってたのをうろ覚えで言ってみたけど、あまり関係がないっぽい)要は、ノリが大切ってことさ。
静かに………溜めて、溜めて…
『未だッ…あ、違う!!今だァァァァァァ!!!』
ドッと床を蹴り上げ、力の限り幣を壁にぶつけようと走りだッ……
「ねぇ」
ドゴォォォォッ!!!!
聞きなれたような声と共に、目の前に現れた黒い影。 目と耳を疑った。
私があと数十センチほどでぶち破るはずだった壁を、ワンテンポ早く、ご自慢の武器で壊してくれた、このKY野郎。
「何回名前を呼んだと思って…『うおわぁぁぁぁっぁあああああ!!!!ごめんもうとまんねェェェェェ!!!!』
また、目を瞑りたくなった。
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