099 わからんものは何と言われようがわからんのよ
『水しか…ねぇよ』
ボソッと呟いてみるが、もう聞いてくれる人はいない。ハッと気付けば今の状態に陥ってる。 いつの間にやらイヤホンは水に濡れ、お陀仏になってしまった。ちくしょう、何だってンだ。
美しいもん?水の事か?
確かに綺麗だよ、透き通ってるからね!!濁ってないからね、わぁ!!並盛の水は天下一だ!!でもよく状況を考えてみようか、私の足は今、地についていないんだよ。
そう、もう部屋の四分の三ぐらいは水かな、水没しちゃってるかな。さすが十年後の世界!!こんなに水が溜まってるってことは外には一切漏れ出してないってことさ。完全なる密閉空間だね!!
…なんでこんな部屋作っちゃったかな、いろいろともったいない気がするけれども。
実はさァこんな流暢に話をしてる場合じゃないんだよね、ホントは。必死になってこの手に届くぐらいの天井をぶち破って脱出するぐらいしか、助かる方法はないんさ。 あーなんでさっき昼寝したかなーなんで自分の体が浮いてることに気が付かなかったかなー。バカ野郎だよ、私は。
でも不思議な事にこの水は…
『並盛の川の水だからかな、昔懐かしい匂いがする。』
青臭い、夏の日の朝の、雨の降った後の匂い。 葉っぱの匂い。 並盛の…私の神社でヒバリの膝に頭を乗っけてゴロゴロしてた…ときの匂い。
…ん?神社?…あり、なんか忘れてるような…あっ!!
バッと慌てて自分の両手を見る。
何かが足りない、そう、私のもう一つの相棒。
『幣がねェェェェ!!!何処だァァァァァまさか沈んでるんじゃないだろうなぁおい!!』
慌てて水面に顔を引っ付け、目を開けば、ぼんやりとした視界の中、明らか手を伸ばしても届くはずのない、つまり底に転がっているひらひらとしたアレがあった。
と、いうよりは落ちていた。
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