097 常識はずれな奴ほど案外モテる。私はモテない…と、いうことは?
振り返ればチェルヴォ、そしていつの間にやら出てきたディ…ディリテ氏、いやディリテ伯爵。言いにくいなー名前。いっそのこと名前を伯爵にしちゃえばいいんじゃねーの。そっちの方が覚えやすい。
“…ディリテ、一発かましてやれ。そっちの方がちひろの身のためだ”
『オイィィィ!!!何か今嫌な単語が聞こえた!!かましてやれって何?!ご主人に向かってなんて口を…あ、ちょ、伯爵ぅぅぅぅうなずかんといて!!!』
あれ、よく見れば伯爵がどんどん小っちゃくなって……あれ?ちょ、待て、アカンアカン。伯爵が後ろに下がってってるぅぅぅ!!やべぇコレ助走つけてるパティーンだ。
このままぶつかってしまえば内臓がつぶれる。つぶれるどころじゃない、口から出てしまうかもしれない。モザイク的な何かが。
慌ててその場から逃れようと足に重心をかければ、案の定というか予想していたというか、ヒュッと軽く音が鳴り、気が付けば私の体は宙を舞っていた。
バシャァァァァ!!!
痛ッてぇぇぇ!!お尻うったよ!!ちくしょう。
『げっ、もうこんなに水たまってんのか!!』
ザアザアと降り続く、滝のようなスプリンクラー。いや、スプリンクラーとはまた違ったものなのだろう。
“ものの数十分で貴様の背丈は超えるだろうな…せいぜい頑張るといい、行くぞディリテ”
どこぞのチキンのような口ぶりのチェルヴォ。 そしてそれについていく、従順な伯爵。
端から見れば鹿にシャチと、かなり奇妙な組み合わせ。だが、今はそんな悠長なことを言ってる場合ではない。言ってるけど。 早く外に出ないと。私がおぼれてしまう。
しかし、バシャリと滝から逃れようと体を少し揺らせば、瞬く間に頭上からさらに強く重い雫が降り注ぐ。 動けば動くほど、水量が増えていく。無駄な動きは極力なしに行動しなければならない。
“並盛の巫女よ”
ピタリと足を止め、振り向きざまに彼は口を開いた。
“物事というのは上澄みとよどみがある。一般には上澄みがよく映え、美しいとされる。”
『…?何が言いたいよ』
“だがその美しさに捕らわれていては事の本質は見抜けぬ、深いモノがきっとある。よどみの中にな。……それを自らの手で見つけられた時、貴様は自分の本質さえも見極められるハズだ”
『……?』
そう言い残し、姿を消す二人…いや、二匹。 彼らが消えた瞬間、この部屋の扉も一緒に消えてしまった。 …つーか今の話聞いてる間にドアから出れば助かったんじゃね。ああ、コレは私の修業だからンな事したら無駄になるから意味ないのか。
姿を消すのも、ドアを消すのも、いきなりこんな不思議な部屋を作るのも、いつだったか夢の中でチェルヴォが見せてくれた水柱のやつと同じ原理なのだろう。
物事の…本質ねェ
…これは、チャンスなんじゃないか。こういった夢小説にはあり得る展開だ。実は私が天才で数々の謎を次々に解いていく…見た目は子供頭脳は大人みたいなギャップ狙いなんだな!?グッジョブGAP
ここで頭を整理してみよう。
上澄みとよどみ…ふむ、なんか鍋のアクを取るやつみたいだな、ママンがそういや石狩鍋をやってくれた時忙しそうにしてたわ。 ああ、あと豆腐作るときとか、沈殿したのと液体があった気がしなくもない。間違ってたらメンゴ!!!沈殿物の方が豆腐だったような―――うめーよな、できたてホヤホヤ。それにかつお節と醤油をかけて…ポン酢でもいいよな。
あーダメだよだれが出てきて考えられない!!テヘペロ!!!
back
|
|