091 干しブドウってギザうます!!
ボウウッ!!
『これが私の…』
黒の巨体に白の体色、弾けるがごとくその体に纏わりつく透明な水の炎―― ゆらゆらと天井の光に反射されていて、綺麗だ。
二つ目の、匣兵器。
「雨シャチ……に、しては少し小さい気がするけど。」 『せいぜい二メートルってとこか、シャチの子供なんじゃないの?』
めっちゃ目ェでかっ
「…まぁいいさ。」
ヒバリは上を仰いだ。 なにかあるのか、と私も同じように天井を見上げるが、別に何にもない。 パネルのような模様がこの大きなホールを覆うようにして広がっているばかりだ。
「最近の匣兵器は性能が上がったみたいだけど」
ボウッ
「僕の並盛には、誤魔化しなんて効かない―――そうでしょ」
紫色のトンファーを構え、彼は私を横目で見た。
「並盛、ちひろ。」 『…すいません、何言ってんのか全然わかんないっす』
ドドドドドドドンッ!!!!
次の瞬間、爆音が建物を揺らす、轟音が響く。崩れていく天井から落下する巨大なコンクリートの破片が、流星群のごとく降り注いでくる。
“大丈夫か、ちひろ”
そう問いかけてきたのは聞きなれた鹿の声。
おい、お前いつの間に出てきた。さっきまでお前の立っている場所にヒバリがいたはずなんだけど…あれ、幻覚かな、チェルヴォの匣には炎は注入した覚えはねーぞ。
“貴様は四六時中炎ただ漏れだと忠告しておいただろうが、ホラ忘れものだ”
ズイッと顔に近づける彼の角には、丁度いい感じにフィットした幣。 手を伸ばしそれに触れれば、まるで清流のような水独特の冷たさを感じた。 ひんやりと、心が落ち着く。体中に川が流れているような、不思議な心地よさ。
“上を見てみろ” 『上?』
ふいっと視線を上の方へ向ければ、炎をまとった黒い巨体が丁度私の真上をすいすいと泳いでいる。
“奴がちひろを瓦礫から守っていた” 『何、だと?!』
すると私たちの視線に気が付いたのか、とぶように宙を旋回しパシャリと軽快な音を立てて私の背中へと乗り移った。
…ん、背中?
『うわっ…重っこいつめっちゃ重っ。何だコイツ、まるで背中に大きなヒバリをのっけたような、そんな気分だ!!』 「それは僕が重いって言いたいのかい」
あ、チキンが登場してきた。お前今までどこにいたんだ。
「君と同じようにロールで瓦礫から身を護ってたのさ」 『はーい、皆さんよく見て!!守るの字が護るになってるよ!!中二くさっ』
「ちょっと君、何ショック受けてるのさ。」
おっとォスルーして別の話題に乗り換えたな、ちくしょうめ!!
ん?ショック?
チェルヴォとチキンの視線が私の背中に集まっているのを知り、振り返ってみれば見るからにわかりやすい顔つきのシャチ。
いや、見た感じ目と口と尾ひれぐらいでしか判別はできないのだが、明らかしゅんとしたかのように落ち込んでいた。 心なしかポロポロと目から涙ならぬ炎を流しているように見えなくもない。 あららら、ガラスのハートじゃねーか。
『あーあ、ヒバリン泣かせちゃった』 “…かわいそうにな” 「!!…ちょっと待ちなよ、泣かせた原因はちひろでしょ。さっき重いっていってたじゃないか。」
ちぇ、ばれたか――――おっと、失礼。そんな楽しいおしゃべりもここまでのようだな。 ヒバリがざっと床を踏みしめ、私の前に立つ。
「弱いばかりに群れをなし」
ビリッと体が震えて心臓の鼓動が早まる。
『ああ、』
彼の炎圧が上がっていく。 その影響を受けてか、私やチェルヴォ達の纏う炎までもが、強く熱を帯び始めた。
胸が高ぶる、血がたぎる。それと同時にチェルヴォと雨シャチが煙に姿を隠している彼らに、牙を見せ威嚇しだした。
顔めっちゃ怖ッ、とくに雨シャチ牙多っ…ああ、そこに目があったのか。私はてっきり白い模様の部分が目だと思ってたよ。
ガシャンッガシャンッ
壊された天井から格子が伸び、侵入者の退路を断つ。
「咬み殺される」
ボウッ
強く、幣を握れば澄んだ水色の炎が灯される。 大丈夫、私はできる。絶対に……寝落ちは、しない。
「―――袋の鼠」
さあ、行こう。初めてのパーティメンバーで。
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