089 人間らしくない奴がらしくない行動をとるのはらしくない。らすく食べたい
「体力はもう十分回復したのかい?」
顔を正面に向けたまま、ヒバリが話しかけてくる。
『まぁまぁかな、これでママンのお菓子があったら最高なんだが。』
どうした、と柄にもなく声が…こう、なんていうのか、不安定なチキンをしょうがないから見上げるようにして見てやる。
決して背が小さいわけじゃァないんだ、私は日本人中学生の(自称)平均といえよう身長だからな。大人のテメェにはちょいとばかし、靴底が足らない。
するとヒバリはいままでに見たことがな…一度だけ昔ヒバリのハンバーグを盗み食いして、涙目になりそうな時のような顔つき。 さすがにこの歳で涙目はねーぜ、チキン野郎。
『……言っただろ、私は死なねぇつってんだろ』 「死なない、とは言ってない気がする」
『…黙れ、そういうのを屁理屈っていうんだよジジイ』
「次ジジイって言ったら今日の草壁の和菓子抜きだから」 『ママンクオリティ半端ねェ!!』
凄いな、まさか十年で和菓子までその手に宿してしまうとは…うむ、これは我が並盛家に専属シェフとして正式に招かねばなるまい。 雲雀家などに渡してたまるもんか。
キィ――と浴衣の袖の所を噛んで悔しがるポーズをやっていると、ヒバリは視線を上にあげ、私の事を見なくなっていた。ちくしょう、タイミング悪いな。
どうやらまだ私が死ぬか死なないか、思考をめぐらしているようだ。 女々しくなったなァオイ。
『おい、覚えてるか。リング戦が終わったとき応接室で約束したのを。テメェにとっちゃぁ十年前の話だろうから記憶の断片でしか無いだろうが』 「……そうだね」
覚えてるよ、まだ。
そう呟く彼の瞳は、明後日の方向を向いている。 …こいつ、ホントは覚えてねェな。
―戦うのも護るのも、二人で咬み殺す―――
確かこんな内容だった、気がする。あり、私もちょいと記憶があやふやだな、やべぇ。人のこと言えねェ。
テメーはあやうくこの約束を破るところだったんだぜ、私がチキンを何が何でも倒さなけりゃな。 この、ばかやろーが。
『うおりゃっ』「!!」
身長を伸ばして伸ばして、ぴょんっと飛びつき、彼の首に腕を回してやった。 そのままぶら下がりながら、足で胴体を挟み込み、よじ登っていく。
「ちひろ」
『ホントにどうしたんだ、テメーは。らしくねェ、いつまで萎れてやがる』
すると彼が発したのは思いもよらぬ言葉だった。
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