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太陽が一筋の光を洩らす前に自然と目が覚めてしまうのは、既に彼女の日課であった。どんなに寝るのが遅くなろうとも、深奥に横たわっていた意識が、絡み取られて浮上してしまうのだ。ごく稀に、彼女の愛する者によってそれは阻まれ、甘く気怠い身体で朝を迎えることがあるのだが、基本的には毎日同じような時刻に目覚めてしまう。
それは、今日も変わりなく、ミラはまだ辺りが薄暗い時に瞼を押し上げた。見慣れた天井をぼんやりと見つめた後、隣で深い眠りに就いているジュードを見て、そっと笑みを浮かべる。
ジュードと再会してから数年が経過していたが、彼を愛しく想う度合いは時間を重ねるごとに増えていた。ただ一人の為だけに自分の全てを投げ打ってしまった事は今でも不思議な話だとミラ自身思う。朝から晩までジュードの事を考えて終わるなど、マクスウェルとして旅をしていた時には考えられなかった事だったであろう。
後ろ髪を引かれる思いでミラはゆっくりとベッドから抜け出すと、寝間着から普段着に着替えに行った。
薄手の寝間着から着替えたのは、これまた薄手の普段着で、おまけに袖もなければ、ボトムの丈もない、普段着と言うよりかは、部屋着のようなものだった。
ぴたりとした生地は彼女の身体を多少なりとも覆いはしたが、隠れてはいても、そのラインを綺麗に描いている。
それを更に覆うように、まっさらな純白のエプロンを纏い、ミラはキッチンへと向かった。キッチンに入ってすぐの所に横たわった雷の源霊匣を起こすと、源霊匣は硝子で出来た球体に灯りを灯した。緩やかな光を生みだした球体は、部屋を優しく照らしていく。源霊匣の頭を撫でながら「良くできた」と誉めたミラは、次に食材置き場へ向かった。そこから四つ、五つばかり野菜や卵を持ち出したミラは、水瓶から柄杓で水を掬い、余計な泥を洗い流した。マティス家の食事は当番制ではなく、作りたい時に率先してどちらかが作るのが主流となっている。もともとジュードはミラに食事を振る舞うことを自ら望んでいて振る舞いたがる性分だった。
けれど、ジュードは多忙な研究者。そして同時に医師でもある。今では源霊匣研究に打ち込んでいるため、退きつつあるが優秀な医者としてその名を知る者も多い。
再会した頃程、過密なスケジュールを取ってはいないが、朝は早く帰って来るのも陽がとっぷり暮れた頃の方が多い。時には昼夜逆転していることだってある。
そんなジュードに料理を作らせる気は、ミラには毛頭なかった。むしろ、自分から進んで食事や掃除を含む家事に勤しんだ。作った料理は毎度大げさなくらいジュードが喜び、どんな料理も残す事なく完食して、彼女の功績を讃える。
新米奥さんをこうしてベタ誉めなのもどうかとは思うものの、彼に誉められると嬉しくなってしまうのも確かだった。
(――さて、これをどう処理すべきか?)
綺麗になった野菜の調理法を考え始めたとき、ゆらりと浮かんだ気配にミラは振り向いた。
「……ミラ?」
眠た気な目をこすり、ふらふらした足取りでやってきたのはジュードだ。いつもの起床時間より一時間も早いジュードに、ミラは目を丸くした。
「どうしたんだ……もしかして、今日は早く出る予定だったのだろうか?」
「ううん。……ごめん、その逆なんだ。今日は急きょ休みを貰ったから、ミラもまだゆっくり休んでといいよ」
ごめんね、話せなくて。
バツが悪そうに話すジュードであったが、彼は昨日、日付が変わりそうな時間に帰ってきたのだから仕方ない。既に就寝していたミラが一度ジュードの顔を見ようと目を覚ましたものの、入浴を済ませたジュードに再び眠るように促され、そのままふつりと寝入ってしまったのだ。
「ふむ……それなら、朝食はもう少ししてから作るとしよう」
後ろに手を回し、不格好な蝶々結びに手を伸ばす。しかし、エプロンの結び目を解こうとしたミラを遮るようにジュードが背中から抱き締められる。こうしたジュードからの触れ合いが、年相応で可愛らしいと感じてしまうと、ミラは口元を緩めた。
「ジュード?」
どうした?
そう疑問を投げかけようとした時、吸い付くように近付いてきたジュードが、ミラの唇を優しく覆った。軽く啄むように何度か合わせ、角度を変えて徐々に身体の芯がとろけるような深いものに変わっていく。
「ふ……っ、ん……」
唇を割りいってきた熱い舌が、ミラのと絡むと、飲み干せない唾液が口元から零れ落ちた。緩やかに身体に熱が籠もっていくが、もどかしいと思うのは、振り向いたままの体勢のせいか。そう思っていた時、ジュードの手が脇腹を通り胸へと向かえば、自然と身体が震えてしまう。
重さを計るように下から持ち上げられ、その柔らかさをてのひらに感じられるに、優しく握られた。質感を体感するようにもみくちゃに揺らされ、中心を執拗に撫でるとミラは頸を緩く振って、唇を離した。
「…………ごめんミラ……なんかこう、ミラの後ろ姿見てたら……その、したくなっちゃって」
耳朶をくすぐるようにそう囁きかけられると同時に、ミラは下肢に押し付けられた硬い熱にハッとした。
「全く君は……。疲れているんじゃないのか?」
口では呆れながらも、ジュードの身体を心配するように尋ねれば、くすりと笑う声がした。
「大丈夫。ミラとこうしてる方が元気が出るから」
その言葉には全く信憑性はないが、言葉を待たずして彼は既にミラの衣服を脱がしにかかっている。そんなに余裕がないのかとジュードの様子に小さく笑いながら、ミラはそれを受け入れた。
なし崩しに始まった行為に、すぐにキッチンは甘い空間になっていった。絶えず聞こえる粘着質な音と、乱れていくばかりの重なる息が、互いの思考を麻痺させていく。
「……っ……はぁ……ん」
ジュードに似付かわしくない激しい律動は、的確にミラの弱い所を突いて攻めてくる。腰を突き出した格好でミラはキッチンのシンクの縁に掴まり、甘い刺激を緩やかに逃がす。そうでもしなければ、麻痺した思考に理性は完全に溶かされ、せがんでしまいそうだからだ。
ミラ自身にこうした行為の羞恥は、通常の女性の半分以下である。一見淡白にも見受けられるが、ジュードに求められればミラはどこまでもそれに着いていけた。
けれど、ミラからそうしてせがめば、ジュードは際限なく彼女を求め、それだけで一日が終わってしまうだろう。せっかくのジュードの休みを有意義に過ごしたい。そう思えば、激しい行為で身体を疲れさせるのは得策ではない。
着衣しているものはふんだんにフリルのきいたエプロンだけと、ほぼ裸同然のミラは、その豊満な胸を揺らしながら、そうして耐える。
「ミラ……はぁ……ミラっ」
「……っ」
けれど、そうして名前を呼ばれる度に、決意がぶれそうになってしまう。熱い吐息で囁きかけられれば、いつだってそれに応えたくなってしまうようにミラを慣らしていったのは、誰でもない。ジュードなのだから。
そんな思いに耽りながらも、緩やかに兆しを見せてきたミラのナカを、突如としてジュードは抜け出した。
「っ……ンっ」
いきなりの喪失感に頸を反らして耐えたミラは、不満気な声を洩らして後ろへ振り向こうとした。だが、身体を引かれて反転させらると、振り向かずともジュードと向かい合わせで顔を合わせる事になった。
「……ジュード?」
「ミラ……ねぇ、僕に構わず我慢しなくて良いからね?」
「ん……?」
意味がわからない。と問い返せば、困ったようにジュードは笑い、ミラの片膝を抱えて蜜壷の入口に、硬い楔をあてがった。その入口を焦らすように浅い部分で出入りを繰り返されると、ミラはもどかしさから腰を緩く振る。
「今日はミラのナカにずっと入っていたいから、お休み貰ったんだよ?」
「ジュード……んぁ……!」
言葉の真意を聞こうとしたが、ぐんと性急に挿入され、ミラはかける言葉を失った。たちまち理性は全て溶かされ、まっさらだったはずのエプロンは、互いの体液によりすぐに汚されていく。
けれど、互いの愛を確かめ合う二人にはそんな事はさしたる問題でもなく、ジュードの言葉の通りに、日がな一日、ミラばジュードを受け入れ続けていた。
愛で縁取る生活
2011.11.13