大事な日々をただ忘れえぬように抱えている自分は、どこまでもあの人にすがって生きているようで、僕は自分の弱さに辟易しつつあった。
昔。そう一括りにしてしまえば終幕してしまう程前に、僕は神様と旅をした。新興宗教の類いである偶像などではなく、万物の創成に関わるような、まさに本物の神様。
奇跡のような出会いは僕を変え、そして世界を変えた。
長きに渡り別れてた世界が統合されると、明ける空も暮れる大地も変化を与えられた。それは、人にとっては暮らしやすくなった世界かもしれない。けれど、聖霊達にはその生命を脅かす世界になったかもしれない。
人と精霊が共存できる世界を目指す。
一見したら夢のような世界を作ると、愛しい神様と約束を交わした。
そうして、その約束を違えぬようにどちらにも未来ある道を目指して、それだけに時間を費やした。
彼女と出会った時の年齢と同じ時間を経てなお、手に入れた物はと言えば、まだ終着点の一端にしか辿り着いていない。
いつ終わるのかわからない、文字通り『終わりの見えない』研究は、時に道を見失い、挫折しそうになったことも少なくなかった。
「ミラ……僕は道をそれていないよね?これで、いいんだよね?」
自分の気持ちがぶれぬように、時折彼女に問い掛けるように呟く。
首元にかかる青いペンダントを撫でながら、このペンダントと同じ色をした蒼穹を見上げた。
_ _ _ _ _
人間と精霊の世界は重なりえない。けれど、私を含めた大精霊には世界の行き来は造作もなく、同じ世界に等しい。
『ミラ』
――と。
懐かしい響きが聞こえ、そちらに目を向けると、私を好いてくれた男が立ち尽くしていた。
また、何かに迷っているのか、歪んだ眉宇と口元に心が少し痛んだ。全てを抱えて潰れてしまうのではないかと、危惧してしまうような表情に、私はその場へ赴いた。
聖霊界側からみた街並みは様変わりしていたが、それを感慨深く思う事もなく、頭を下げる聖霊達に目を向けることもなく、ただ私は人間界側にいる彼を見つめる。
彼に全てを託した事は、重すぎのだろうか……。
出来ないとは思っていない。けれど、彼一人に比重がかかりすぎていることは事実だ。彼は人間なのだから、限られた時しか生きられないというのに……。
最初からわかっていたことを嘆くのは自分らしくない、か――。恐らく彼なら何十年かかっても、成し遂げてくれるげてだろう。
精霊である私と、人間である君とした、優しい世界を作る約束を。
薄い壁を隔てて彼の背に触れる。
そこから彼が生きている温かさを感じる事は出来ないが、それでも胸が震える程に彼への愛しさが溢れ出した。
「ジュード……頑張ってくれ」
急き立てられる想いを無視しながら口元に無理やり笑みを浮かべると、私は彼を送り出すように、やわらかな風をその背に与えた。
終わらない理想論
2011.12.04