嘘も方便というでしょう? | ナノ



ダイダイ島で知り合った憧れのオーキド博士と知り合いであるという2人は出会った時からとにかく不思議な存在だった。旅の経緯はここに来るまでに何度か聞いてきたけれど、やはり最初に抱いた印象が頭から離れないせいだろう。


―2人は恋人じゃないの?

そう何度か尋ねた気もするけど、全部二人して全力で否定していた。それが余計に怪しまれることは幼い二人には分からないのだろう。それともうひとつ不思議な二人の関係。


「サトシのバカ!もう知らない!」
「勝手にしろよ!」


サトシとカスミの口論は宿場に着くまで小一時間続いていた。なんだなんだと他のトレーナー達が振り返るのも何のその、僕の仲裁も虚しくスルーされ諦めかけていた時ジョーイさんによって言い争いはおさまった…かのように思えたのだが。


「サトシー、カスミを探さなくていいの?」
「いいんだよあんなやつ!放っておけば!」
「でももう暗くなってきたし……」
「じゃあケンジが探しに行けばいいだろ!」


とにかく俺は知らない、とまだ夕方にも関わらずすっぽり布団を被る姿はまるでいじけた子供だ(いや実際子供なのだけど)。
サトシに悪態をついたカスミは涙を浮かべながら宿場を飛び出したのは日暮れ前だった。しかし今はもう空が藍色に侵食され始めている。


「サトシー」
「ピカピ……」


カスミが心配ではある。でもサトシもカスミもわかっているはずなのに。僕が探しに行ったって意味はないって。自覚はないのに気持ちははっきりしてる2人は正直見ていて歯がゆい。仕方がない。ここはあの手を使うか。


「実はさ、サトシ。ここマーコット島と関係が深いんだよね」
「マーコット島……?」
「僕がストライクを捕まえた場所だよ。そこのポケモン達はよくこの島にも来るんだ」
「どういう意味だよ」
「そういう意味だよ。カスミ、放っておいたらまずいんじゃない?」
「!!!!」


夜に活動するポケモンだっているからね。そういえばサトシは全てを理解したように布団を剥いで部屋を飛び出す。相棒もまた大好きな彼女の為にサトシの後を追う。


「全く……世話が焼けるなぁ」


マーコット島と関係が深いなんて嘘だ。だがしかし宿場を囲むように自然が豊富なのも嘘じゃない。群れは成さないにしてもカスミを恐怖に陥れるくらいには野生は生息しているだろう。サトシが一番よくわかっていて、こうして一目散に駆けていく。それに対して自覚がないのだから2人をくっ付けさせるのはこれからも苦労しそうだ。


「さて……観察させてもらおうかな」


今までポケモンや綺麗な女性以外に使うことのなかった愛用のスケッチブックを握りしめ、僕も部屋を飛び出す。歯がゆいけれどこんな楽しい出来事、見逃すわけにいかないじゃないか。


「カスミ!!!!!」
「サ、サトシ……なんでここって分かったの?」
「な、なんとなくだよ!早くポケモンセンターに戻るぞ、お前の嫌いな虫ポケモンが出ないうちに!」
「………っ、余計な…お世話なんだから」


ほんと素直じゃないんだから。


(マーコット島と関わりがあるなんてジョーイさん言ってなかったぞ!)
(あれ、そうなの?勘違いだったかなー)
(ケンジィ〜!!!!)


嘘も方便というでしょう?



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明日への扉の葉月さんへ!
お誕生日おめでとうございます(*´∇`*)








「溺愛honey」泉美様より頂いた誕生日小説です。
とっても素敵なプレゼントありがとうございます!



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