天使なんかじゃないけれど | ナノ



『笹川……落ち着いて聞いてくれ』

「うん……」


落ち着いて、なんて言うけれど、電話越しの獄寺君の声だって震えてるよ?

こんなにも獄寺君が動揺することといったらただ一つ。





ツナ君に…何か起こったんだね?





『アイツは京子の為に死ぬ気で生きる。だが、覚悟はしておけ』





ほぼ確定の推測が終わった後によぎったのはリボーン君の言葉。

何年か前、ツナ君とお付き合いを始めたあの日に言われた現実。

わかってる。それがリボーン君なりの優しさだってことぐらい。

覚悟はしてる。ツナ君はそれほどに影響力のある人だもん。


わかってる、わかってるよ。

でも―…。








『10代目が…………撃たれたらしい』








でも―――嫌だ。





「ツナ君……っ!」



電話を切って、私は駆け出した。

いきなり切って獄寺君は驚いたかな、なんて考えは一瞬で消えた。



「ツナ君…!…ツナ君っ!」



すぐに会いたい、触れたい、話したい。

一緒に泣いて、笑って、たまにケンカして、そしたらごめんねって謝って。

明日の天気のこととか、新しく見つけたケーキ屋さんのこととか、伝えたいことは山ほどあるの、溢れてくるの。





『覚悟はしておけ』



私の覚悟はツナ君がいなくちゃ成り立たない。

不幸な未来なんか望んでなんかやらないわ。



『京子はオレにとって天使だよ』



いつだったかこう言ってキスをしてくれたよね?

でもね。違う、違うよツナ君。

私はそんなにきれいじゃない。誰が何をしようとあなたを喪いたくない。神様にでさえ、あなたを渡したくない。ツナ君のいない世界なんて私はいらない。


そんな黒い感情が止まらないの―…。



「笹川さん!?」



なだれ込むようにアジトに駆け込んだ私に、草壁さんが目を丸くして驚いている。

けど、今は気にしてなんていられない。





「ツナ君っ…!」


医務室のドアをおもいっきり開けて、出せる限りの声で名前を呼ぶ。



「………っ、いな…い…?」





響くのは自分の荒れた呼吸音だけ。呆れるくらい医務室はがらんとしていて一気に怖くなった。



「………ツナく「あれ?京子?」」



ふらふらと一歩を踏み出したのと、誰かが私を呼んだのはほぼ同時だった。










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「え!?そんなに大袈裟に伝えたの?それは誰でも誤解するって!」


オレかすっただけなんだけど…と少し戸惑いぎみに笑うのは10代目ボンゴレボス――沢田綱吉。つまりツナ君。

その晩、ボンゴレアジトの会議室では10代目ファミリーによる反省会が行われていた。



「俺も獄寺から連絡が来たときはビビったのな。マジでツナがヤバイかと思った」

「まったく…沢田はかすり傷だと極限伝えただろう!」

「言ってねーよ!芝生、テメー自分が何言ったか覚えてないのか!?『沢田が撃たれた!今すぐ医務室に連絡を入れてくれ』って言って一方的に電話切ったじゃねーか!」

「クフフ…原因はあなたでしたか。笹川了平」

「嵐の人にその言い方はマズイかも…」

「…くだらない。僕は先に帰らせてもらうよ」



ぎゃあぎゃあと会議室が騒がしくなるのはいつものこと。

そして、成り行きで参加した私は呆然とその反省会を見つめるしかなくて…。



「京子も迷惑かけてごめんね」

「あ、ううん!…ツナ君が無事でよかった」



でも、あまりにも普段通りのやり取りにただただほっとするばかり。



―――よかった…。



こうしてまたツナ君の笑顔を見れて、声が聞けて、本当によかった。本当に―…。



「…!京子!?どうしたの?」

「…え?」

「と、とにかくこっち!」


いきなりツナ君が慌て出して、私は訳もわからぬまま会議室の奥の執務室へと連れていかれた。

守護者のみんなは今もがやがやと言い合いをしていて私たちには気づいていないみたい。


「ツナ君…?」

「京子、ごめん…」


そっと頬に触れたツナ君の手で、私は今泣いているんだと自覚した。


「心配かけたね。わざわざアジトまで走らせちゃったみたいだし…」


困ったように優しく笑うツナ君に、今度こそ涙が溢れて止まらない。


「いいの…!ツナ君がいてくれたから。走ってくる辛さよりも…ツナ君がいてくれない方が…ずっとずっと苦しいの!」


ぎゅっとツナ君のスーツを握りしめていた私を、ツナ君はふわりと抱き締めてくれた。

まるで子供をあやすように、あたたかく包んでくれる。


―――ああ、これがツナ君なんだ…。


ふわふわとしているのにどこかどっしりとしているから、全てを委ねようと思えるんだ。



「こんなにかわいくてオレを想ってくれる彼女を……京子を残してオレは消えたりしないよ。てか、できない」

「ツナ君…」

「オレがピンチになったって、きっと京子の想いがオレを助けてくれるんだ」


―――京子はオレの天使だよ。


そっと囁かれた言葉に胸がきゅっと締め付けられる。



―――私はそんなにきれいじゃない。



けれど―…。



「ツナ君、大好きだよ」

「オレも」



あなたがそう言ってくれるから、せめてあなたの前だけでは天使のような私でいたいと思うのはいけないことですか―…?







天使なんかじゃないけれど

(あなたを護りたいです)





暗っ…!どうしてこうなった←
純粋にほのぼのした二人が書きたかったのに…!(>_<)

でも京子ちゃんってふわふわしてるからこそたくさん想いを抱えてそうじゃないですか?
それを無意識に汲み取ってくれるツナは京子ちゃんにとっては全てだと思うんです!
逆にツナにとっても、京子ちゃんは希望や未来の象徴。全てを照らし導いてくれる彼女が全て。
そうやって相互補完する二人が好きなんです…!

読んで下さってありがとうございます!


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