想いの先(後編) | ナノ



頑張れる理由は君だった。

「ただいま」に答えてくれるその声が、オレの居場所を作るんだ。

いつだって、オレは君に支えられているんだよ。













かなり前のこと。リザードンに乗って、カスミとマサラタウンに向かっていたときだった。


「なんだかデートみたいよね」


くすくすと優しく笑うカスミが愛しくて、隠すことの出来ない思いが溢れて来た。


「そうだな」


照れ隠しに笑いながら振り向くと、そこにはすごく幸せそうに微笑むカスミがいたんだ。


その日から、オレの頑張る理由はひとつになった―…。









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「こんにちはー!」

「久しぶりだね、サトシ!」

「アイリスにデント!二人とも来てくれたんだな!」

「あったり前じゃない!それに、一度はカントーにも来てみたかったし!」

「こっちのポケモンは向こうでは珍しいからね。ポケモンソムリエとして一度は見ておきたかったのさ!」


イッシュ地方からアイリスやデントも来てくれてますます賑わうパーティー会場。そんな中、オレはカスミの姿がないことに気付いたんだ。


―――どこに行ったんだ?


そっと抜け出して辺りを見渡すと、探していた姿はすぐに見つかった。



「カスミ」



家からそう遠くない丘の上にカスミは座っていた。…よく見ると、背中が小刻みに震えている。


「カスミ、隣いいか?」


こんなとき、きっとタケシならカスミをそっとしておいてあげるのだろうけど、オレにはそれは出来なかった。


カスミは振り返らずに頷き、オレはカスミの隣に腰をおろす。







「サトシ」








―――カスミの声で呼ばれる名前が1番好きだ。



オレの名前を呼んだ後、顔を膝に埋めてしまったカスミを見ながらぼんやりとそう思っていた。









――ポン、ポン――


それは自分でも無意識で、気付けばオレはカスミの頭を撫でるように触れていた。



きっとカスミは、オレのために一生懸命涙を隠そうとしている。

その理由がわからないほどオレはもう子供じゃないんだ。







―――好きなんだ…。







伝えてしまったら、カスミを放してやれないかもしれない。



―――離れたくない。



わがままな想いがオレを支配してしまうだろう。





だから今は、気付かないふりを。










頂点に立ったオレをカスミに見てもらうまでは、秘めておこうと決めた想い。





カスミを苦しめているなんて、とっくの昔に気付いている。













「カスミ…」


名前を呼ぶと、カスミはビクッと体を強張らせた。

そんなカスミに気付かないふりをして、オレは話を続けることにした。



「今は、たくさん泣いてくれよ…」

「…ぇ…?」


オレの言葉に反応したカスミは、少しだけ顔をあげた。


「オレの前ではいっぱい泣いて?」


そんなカスミにオレはにっこりと笑う。


「たくさん泣いたらさ…その後に笑ってくれよ。そしたらオレ、頑張れるから」


泣いてもいいんだよ。いつも頑張って強がる君だから。

たまには泣いて、泣いて、そしたらその後に笑顔を見せて。

オレはきっと、その笑顔だけで頑張っていけるから―…。








「サトシのくせに生意気…」

「…悪かったな」

「おもいっきり泣いてやるんだから…」

「おぅ…」












オレ、頑張るからさ。

できれば信じて、待っていてほしい―…。














「…頑張りなさいよ」

「任せとけ」












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「いってらっしゃいサトシ、頑張るのよ!」


パーティーの次の日。母さんからリュックを受け取って、オレはまた旅に出る。



「しっかりな、サトシ」

「ああ!タケシも頑張れよ」

「研究所のポケモンは任せておいてよ!」

「みんなにもよろしくな!」

「サトシ!ボクも負けないからね!」

「おう!一緒に頑張ろうな」

「頑張ってね、サトシ!」

「サトシなら大丈夫!」

「サンキュー!ハルカもヒカリも頑張れよ」

「あたしだって負けないんだからね!」

「俺だって!アイリスも頑張れよな!」

「グッドな旅になることを願っているよ、サトシ」

「サンキューデント!」



みんながくれる一言一言がオレに力をくれる。だからオレは前を向いていけるんだ。





「サトシ」

「カスミ…」





本当は、カスミからの言葉を待っていた。










「逃げて来たら許さないんだから!」

「―…っ!」



睨まれた。

久しぶりにこんなにも睨まれた…。



「頑張りなさいよ!」



―――……〜っ!!




睨まれたことで半分放心していたオレは、その後のカスミの笑顔に負けた。



「ああ!」



赤面しているだろう姿は恥ずかしいけれど、カスミのくれた笑顔をしっかりと覚えていたかった。

カスミの後ろでは仲間がニヤついているけど……気にしない。



「待ってろよ、カスミ!じゃあな!行ってくるぜ!」










もう少し、もう少しだけオレを待っていてくれ。


その後は、絶対オレが笑顔にしてやるから―…。











想いの先(後編)

やっぱりお前が大好きだ!








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後編出来ました!
やっぱりサトシでシリアスはムリでしたね(笑)
彼は常に前を向いているので、だからカスミも辛くても想っていられるのかな?
素敵なリクエストありがとうございました!

読んで下さってありがとうございました!

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