夕焼け色 | ナノ



それは、突然の報せだった―…。




「カスミがいなくなった!?」




久々にオーキド博士に電話をかけたら、電話に出たのは、今までにないくらい慌てた様子のケンジだった。




「何でだよ!いなくなったって…!」

『実はカスミ、最近元気がなかったんだ。だけど、僕も忙しくて…。今朝、カスミがいなくなったってサクラさんが…』


悔しそうに顔を歪ませるケンジに、オレも思わず拳を強くにぎりしめた。



「ジムは…大丈夫なのか?」

『とにかく、カスミと連絡が取れるまではサクラさんが臨時で受け持つみたいだよ』

「カスミの居場所に心あたりはないのか…?」

『………あるとしたら、ひとつだけ―…』











ケンジとの電話を終え、オレはすぐに駆け出した。そこにカスミがいるかなんてわからないけれど、かまうもんか!



なぁカスミ。

なんで、オレを頼ってくれなかったんだよ―…。










======









「ピカチュウ、カスミいるか?」

「ピカチュ……」


ピカチュウはうなだれたように首を振った。ピカチュウも突然のカスミの失踪がショックだったらしく、ずっと元気がない。


ケンジの言った場所、それはアルトマーレだった。

オレたちがまだ一緒に旅をしていた頃訪れた水の都。ラティオス、ラティアスと出会ったあの街だ。





――なんか、カスミらしいよな。




とにかくカスミを見つけなければと、オレは街の人に聞き込みを始めた。





「え?ハナダのジムリーダー?それなら朝、船着き場で見たけど…」



今やカスミは全国的に名の知れたジムリーダー。もちろん目撃情報なんて簡単に集まるんだけど…。




「カスミさん?それなら1時間前に、あの橋の上にいたわよ」




「ハナダのジムリーダーなら、20分前ぐらいにそこで誰かと話していたなぁ…」




よほど動き回っているのか、なかなかカスミは見つからない。





「その子なら、さっきすれ違ったぜ?」



「ど、どっちに行った!?」

「多分港の方だな。ここをまっすぐ行けばたどり着くさ」

「ありがとう!」






カスミの行動はカスミの自由だし、オレがとやかく言えるわけないってわかってる。だけど、カスミの行動にオレが関わっていたいと思うのはわがままなんだろうか。


なぁ、オレはお前に伝えたいことがあるんだよ。だから、オレに黙って勝手にいなくならないでくれ。




カスミに、会いたいんだ―…。










======








港にたどり着くと、そこには夕日で赤く染まる海が広がっていた。そして、その赤と同化してしまうんじゃないかってぐらい儚くて、綺麗な後ろ姿は―…。







「―…っカスミ!」


「ピカチュピ!」


カスミが振り返るよりも早く、ピカチュウはカスミの腕に飛び込んで、オレはカスミを抱きしめた。



「……ピカチュウ……と、サトシ……?」



カスミは反射的に抱き留めたピカチュウを見つめながら、驚いたようにオレ達の名前を呼んだ。


ピカチュウはカスミがいなくなってしまった時の不安感を消すように、強くカスミにしがみついている。

もちろん、オレも。このままカスミが消えてしまわないように、強く抱きしめた。




「オレ最初さ、お前と出会ったこと最悪って思ってた」

「………何よ、いきなり」

「でも、旅を続けるうちに、そんなこと思わなくなったんだ」

「………」


カスミは静かにオレの話を聞いているようだった。

だから、オレも気にせず話を続けた。


「カスミはさ、オレが間違ったときは叱ってくれる。でも、オレが決めたことはしっかり応援してくれる」


―――カスミがいるから、オレは全力でいられたんだ。


「オレのスタイルが変わらないでいられるのは、あの頃のカスミとタケシのおかげだよ」

「―……っ!」



カスミが息を呑んだのがわかった。でも、まだひとつ。伝えていないことがあるんだ。








「カスミ」











届け、オレの想い―…。













「オレ、カスミがいなくちゃダメなんだ」

「え……?」







カスミが見ていてくれなきゃ、嫌なんだ。もうどうしようもないくらいに。













「好きなんだ、カスミのことが」












いつだって見ていて欲しい。オレの知らないとこに行かないで欲しい。せめてオレには伝えて欲しい。だから―…。












「黙って、ジムからいなくなるなよな……」






「………は?」







それまでオレの話を黙って聞いていたカスミが、急に間抜けな声をあげた。

そしてそんな声に驚いたオレが腕の力を緩めると、カスミはオレから離れ、くるっとこちらを向いた。



「あたし、黙ってジムを抜け出したりしてないわよ?」

「え?」




カスミの言葉の意味が、よくわからない。






「久々にアルトマーレの水上レースに出ないか?って誘いがあったから来ただけよ。お姉ちゃんにはちゃんと伝えてあるし、誰から聞いたのよ、ソレ」

「ケ、ケンジから……」

「ケンジ?あたしケンジにもちゃんと伝えたわよ?」

「―…!?」







オレがケンジにはめられたと気付いたのはこの瞬間だった。

もちろん、カスミの腕の中のピカチュウも口をあんぐりと開けている。




そして、一気に恥ずかしさが込み上げて来た。



―――オレ…好きだって言ったよな!?



















「じゃ、あたしポケモンセンターに戻るわ」

「え、カスミ!?」





ピカチュウを抱えたまま、カスミは何事もなかったように歩いて行く。そして、固まっているオレから少し離れた場所で立ち止まった。








「サトシ!」

「………?」













「あたしも好きよ!」





綺麗な笑顔を浮かべて、そう言って、走っていった。










「やべ………」



顔が赤いなんて、そんなレベルではない。込み上げてくる感情はもう抑えられなくて。


きっと真っ赤になっているであろう彼女の側に行くために、オレも全力で駆け出した!












夕焼け色

(オレも水上レース出ようかな〜)

(あら、どうせ勝つのはあたしよ?)

(負けるもんか!)










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1111hit、ゆっぴ〜様のリクエストで「サトシ→カスミの告白話」でした!
長い間お待たせしてしまって本当にすみません!(泣)
ど、どうでしょう…?

なんだか我が家のサトシはカスミを抱きしめてばかり…(笑)

単純な葉月は、遠回しな言い方が思い付かず、結局ストレート告白になりました(笑)

ケンジは二人からの報告を聞いて「よし、作戦成功!」となるのです←

気に入って頂けたら光栄です☆
リクエストありがとうございました!


読んで下さってありがとうございます!
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