きみがいれば | ナノ
『カスミ、ジムリーダーってちょっと休みとかもらえたりしないのか…?』
それは秋の終わり。ポケモンマスターになるために、サトシが一人で本格的な特訓の旅に出てから一年ほど経ったころだった。
「しばらく…ってどのくらいなのよ?」
イッシュに旅に出たあたりから、こまめに連絡をくれるようになったサトシ。今では1ヶ月に一度は話すほどだ。
そう。あたしたちは最近、世間で言う恋人と呼べる関係になった。
まだ誰も知らないけれど…。
『1ヶ月ぐらい…』
「1ヶ月っ!?」
『やっぱ無理か…?』
「う〜ん……ジムの管理協会に聞いてみるわ。すぐかけ直すからちょっと待ってて」
『おう。悪いな』
――珍しいこともあるのね…
あたしが行かなきゃいけないって、よっぽどひどいスランプなのかしら…
――でも…ずっと会いたかったからな
そんなことを考えながら、あたしは協会へと電話を繋いだ。
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『どうだった!?』
「わっ!びっくりした〜」
『で、なんて言われた?』
「………」
『カスミ…?やっぱり…』
「オッケーもらっちゃった」
『そうか……えっ!?』
「最近のハナダジムは順調に運営してたからね。プールの調整も兼ねて、しばらく休み貰えちゃったの!」
『そっか!よかった〜!』
「でも珍しいわね。あんたがタケシたちでもなくあたしに連絡するなんて」
『ま、まぁな!ちょっと今回はカスミに用があって…』
「スランプにでもなったの?」
『…そんなことねーよ!オレの特訓は至って順調なの!』
「あーはいはい。じゃあ何なのよ?」
『何だよその流し方…。まぁいーや。こないだシゲルにこんなの貰ったんだ』
そう言って、サトシはチケットのような物をひらひらとあたしに見せた。
「何よそれ…。水ポケモンを巡る旅、オレンジ諸島観光ツアー…?」
『そ!水ポケモンといったらカスミだろ?せっかくもらったんだから行こうぜ!』
「行く行くっ!水ポケモンを巡る旅とか最高じゃないっ!オレンジ諸島も一度ゆっくり観光したかったのよね〜」
『だろ?オレも久しぶりにカントーのポケモンに会いたくてさ。じゃあ決まりだな!』
「そうね!じゃあ1週間後に飛行せ…『あ、あのさ!』」
「………?」
『1週間後、オレが迎えに行くから!』
「……え?」
『二人で一緒に…行こうな?』
一瞬、サトシがすごく大人びて見えて、あたしは思わず息を呑んでしまった。
『じゃ、またなっ!』
暗くなった画面を、あたしはしばらく見つめていたのかもしれない。
――サトシったら…いつの間にあんな表情するようになったんだろう…
心拍数のあがった胸を抑えようと深呼吸。でも込み上げてくる笑みは抑えようがなくて。
「やっぱり…好き」
すみませーん!と奥から声がする。挑戦者が来たのだろうか。
「…今日は負ける気がしないわ!」
本日のハナダの人魚は、いつも以上に強く、美しかったそうだ―…。
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一方―…。
『カスミちゃん。最近綺麗になってるよ?』
『…いきなりどうしたんだよ、シゲル』
『彼女に言い寄る男も日に日に増えてるとか…』
『…だから何なんだよ?』
『まぁまぁ、これでもあげるからさ』
『水ポケモンを巡る旅…?』
『たまには二人でのんびりしたらどうだ?つまらない奴に彼女を奪われる前にさ』
『なっ!おまっ…!』
『僕には隠しても無駄だよ。彼女のこと大事にしろよ。じゃあな、サトシ』
「なんてやり取りがあったなんて、カスミには言えないよな…」
――でも…
「オレのために、休んでくれようとしたんだよな…」
最近は納得したバトルができず、スランプもあながち間違ってはいなかった。
「やっぱりカスミには敵わないや…」
でもきっと、そんなスランプはもう終わる。
カスミと一緒なら、なにもかもうまくいきそうだから―…。
きみがいれば
僕らはもっと強くなる
(だからってなんでシゲルがこんなのくれたんだ?)
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匿名様によるリクエストで「元気にじゃれあうサトカス」でした。
あれ…?あれれ?
元気にじゃれあってない…Σ(゚Д゜)
なぜだろう…(´Д`)←
葉月はまだまだ未熟です(;´・`)
リクエスト小説になってなくてすみません(*_*)
ちなみに、ちょっと補足しますと、カスミは会えない寂しさをなかなか素直に表現できないんです。
シゲルはカスミと仲良しなので、彼女の些細な変化もお見通しなので、サトシをからかってカスミと旅行させることに成功したのでした(^O^)/笑
読んでくれてありがとうございました☆