三輪隊
「みんな聞いてくれ。ホワイトデーのお返しを考えた」

「おおー!奈良坂なんか気合い入ってんじゃん!」

「結局何にしたんだ?」

「これだ。これならまず間違いない」

「え、奈良坂先輩これって……きの◯の山とた◯のこの里ですよね。いくら何でも全員でこれ一袋がお返しってのはどうなんでしょうか」

「よく見てみろ一袋じゃないぞ、古寺。全部で五袋ある」

「人数分ともう一袋は失敗した時の為に用意した予備だ。これだけあれば充分だろう」

「予備を用意するあたり流石だな」

「秀次ぃ予備とか今どうでもいいって。なぁ奈良坂、失敗ってどういう意味だよ。あとはこれ月見さんに渡すだけじゃねーの?」

「いや違う。これはあの有名なき◯この山と◯けのこの里が誰にでも簡単に作れるという手作りセットになっているんだ。これを俺たち三輪隊全員でひとつずつ作って月見さんに渡すつもりだ」

「………と、思うじゃん?」

「米屋先輩、奈良坂先輩の眼を見て下さい。これは本気です」

「 …仕方ないな。本当に簡単に作れるんだろうな」

「大丈夫だ。小さな子供でも簡単に作れるらしいからな。章平お前はこの作り方を読み上げて三輪と陽介の二人に指示しろ」

「了解しました!あれ、奈良坂先輩は?」

「俺はあっちで一人集中して更にレベルの高いきのこの山とたけのこの里を製作しようと思う。邪魔するなよ?」

「奈良坂さーん、もう普通にきのこの山って言っちゃってるから。それ伏せてた意味がないだろうよ」

「わかりました。では三輪先輩と米屋先輩お願いします。まず手順その1、チョコレートを50度程度のお湯に入れて柔らかくする。その2、型に好みのチョコレートを流す。その3、クラッカーかクッキーをそれぞれさす。その4、冷蔵庫で約30分間冷やす…作り方は以上です。あー良かった、簡単そうで安心しましたよ」

「ま、そうだなー。ん?お湯なんて用意してないぜ?」

「米屋も少しは頭を使え。電子レンジで温めればすぐチョコレートなんて直ぐに溶けるだろう」

「おおー!それだ!溶かして型に流し込めばいいんだから同じだな。そんじゃあスイッチオン……お、やっぱ溶けんの早ぇな!………アレ?なぁ秀次、レンジの中でチョコレートがプスプスいってる!これ焦げてないか?!」

「何だと?!陽介今すぐにレンジから出せ!古寺はそのフォローに入れ!」

「へ?え、はいっ!」
(この場合のフォローって何するんだ?!)

「あっちー!うわ駄目だこりゃ完全に焦げてる」

「……本当だ。予備があって助かりましたね。おれお湯を沸かしてきますね!気を取り直して作り直しましょう」

一時間後

「昌平お前ら何をバタバタしていたんだ。まだ作れていないのか?」

「最初は失敗ばかりでしたが一応、形にはなってると思います。今は冷蔵庫の中で固めてる所です」

「スッゲー疲れた……奈良坂ぁ、これ買った方が早ぇし絶対に美味いよ!」

「俺も陽介と同意見だ。見た目が微妙なきのことたけのこのチョコレートが時間と余分な金を払った対価と全く釣り合わないし、月見さんが喜ぶとは思えん」

「三輪…この素晴らしい手作りセットに対してそんな失礼な事を感じているのか?仕方ない、俺の作ったチョコレートを見てみろ」

「こ、これは!なんて綺麗なきのことたけのこなんだ!?」

「成る程。まるで工場から出荷されたように寸分違わないチョコレートたち。そこに綺麗にデコレーションされたカラフルなアラザンやチョコレートペンシルで描いた繊細な模様…ここまで行くと手作りチョコレートでも時間を掛けた価値があるな。これなら月見さんも納得するだろう」

「どうやらおれ達が間違ってましたよ。奈良坂先輩のチョコレートなら充分に既製品以上の価値がありますよ!」

「真面目な顔して秀次も昌平も何言ってんだよ?そもそも、そのクオリティーがきのことたけのこにいるのかよ?子供の手作りセットを使ってここまで緻密にやる奈良坂のが逆に可笑しくねーか?俺たち三人もそれなりに良くやったって!二袋失敗したけど」

「陽介お前は何も分かっていないな」

「そうですよ米屋先輩」

「何この展開……奈良坂、大体キノコ頭の癖にたけのこ作るとかそれギャグとしか思えねぇーんだけど!そこは良いのかよキャラクター的に!」

「陽介…お前何を言っているんだ?」

「その死んだ様な冷たい眼で見るのは止めてくれない?傷付くんだけど!」

「芸術がわからない米屋先輩は放って置いて月見さんに渡しに行きましょう!」

「ああ」

「そうしよう」

「酷くない?!俺も行くってー!」


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