(文化祭当日)[ 12/22 ]

 そしていよいよ、文化祭初日。去年は劇で忙しかったし、魔女のカッコさせられてた所為でろくに出歩けんかったから、そのぶん三年になったら楽しもう!……と思っていたけど、生徒会に入っている今、単純に楽しむなんて出来るはずがなかった。朝からあちこちのイベントに駆り出され、かと思えばクラスの受付もさせられて、昼飯を食ったのも三時過ぎ。ほんまは色々食べ歩きしたかったのに。
 遅い昼食のヤキソバを食べ終わった俺は、ちょうど休憩に入っていた志賀と教室の奥で喋っていた。志賀はこのガタイで何故か口裂け女を任されていて、顔が全面白塗りで、口の周りを真っ赤に塗りたくっていた。口裂け女ってもっとこう、口角を伸ばすように口紅塗って、裂けてる風を演出すべきやと思うんやけど。志賀は適当に口紅塗ってるから口裂け女っつうよりかはお化けのQ太郎に近い。まあそっちのが似合ってるけど。
「で、うちのクラスどんな感じなん?」
「けっこー賑わってるよ。なんせお化けがいい仕事してるからな!……まあなんだ、一回だけ、あの生徒会の……秋場だっけ? あの人にやり過ぎだって、イエローカードもらっちゃったけど」
 志賀がぴっ、と一枚黄色いカードを手に取ってみせる。展示を見回って違反をしているクラスにはイエローカードを発行して、カードが溜まったクラスには営業停止を命ずる……というのも、生徒会の仕事のうちの一つやった。秋場も意外と真面目に仕事してんねや。と思いながら、一応訊いてみる。
「アホやな。秋場に何やったん?」
「バケツの水三人がかりでぶっかけた」
「……お前……」
「いやー、生徒会の人にはいいとこ見せなきゃと思ったら、ついハッスルしちゃって」
 てへへ、と志賀が照れくさそうに頭をかく。反省してへんやろこれ。むしろイエローカードで済んで良かったわ。俺やったら一発退場やな。
「あ、京のスライムもけっこう評判いいぜ。気持ち悪い感触がウケてる」
「ほー、そりゃ良かった」
「あと新島さんが持ってきたっていうなんか変なやつ? あれもまあそこそこ。卒塔婆の血のりは服についたらヤバいから使えないけど、雰囲気出てるよな」
「まあ雰囲気だけはな」
 相槌を打ちながら昨日言われたことを思い出したけど、今は考えないことにした。
「あ、それからな、午前中に来た客ですげえ変なやつがいて――」
「志賀君ー、休憩終わりー! 交代だよー!」
 声のした方を見ると、長いヅラを被り、白い服を着たクラスメイトがこちらに歩いてくるところやった。
「わかったー! んじゃ京、俺行ってくるわ」
「おう。頑張れ」
「京もなー」
 手を振りながらQ太郎……じゃなくて口裂け女が去って行った。その場に残された俺はしばらくぼうっと座っていたけど、すぐに立ち上がった。時計を確認すると、三時半。次の仕事までまだ時間がある。俺は食い終わったヤキソバの入れ物をゴミ箱に捨てると教室を出た。せっかく時間余ってんから、ちょっとぶらぶら見物でもしようか。見回りも生徒会の仕事の一部やしな。
 特に行くあてはなかったけど、ちょうど一組でブルジョワ喫茶なるものをやっていることを思い出した。良にも会えるかもしれんし、行ってみることにする。
 隣のクラスなので、数歩歩けばもう中に入ることが出来るはずやったんやけど、
「な……なんやこの人は」
 見渡す限り人、人、人。人で埋め尽くされている。なんという盛況っぷり。
「お、藤村じゃん」
「あ、楠木!……ってお前それ、」
 入口に立ってた楠木に声をかけられて振り返ると、そこには白いシャツに黒いベスト、首元にはアスコットタイを締めた執事姿の楠木がいた。髪もオールバックにしていて、ちょろんと垂れた後れ毛がなんかセクシーに見える。
「っえ、何!? お前も執事やるんやったん!?」
「ああ、まあな。本当は裏方だったけど代わってもらった。良に勝つためにはしょうがない」
「え?……へ?」
 よく意味がわかってない俺の顔を見て楠木が付け足す。
「俺もまあ一応、並み以上の見た目だから。クラスを勝たせるためには、ちょっとでも客引かねえとだろ」
「……お前、自分でそういうこと言うキャラやっけ?」
「冷静な分析だ」
「はあ、……」
 なんかまだツッコミたかったところやったけど、確かに楠木の執事姿はサマになっていたので黙っておくことにした。実際さっきから何人かチラチラ楠木見てるし。俺は楠木から目線を外すと、今度は人でごった返す店内を見渡しながら言う。
「しかしすっごい人やなあ。あそこ何、パンダでも置いてんの?」
 ひときわ人で溢れている教室の隅を指さす。すると楠木は少し思い出すように顎を押さえてから言った。
「ああ、あそこは多喜のテーブルだな。三時に入ってからずっとあの調子だ」
「ああ、なんやメイドさんか。おーいたきちゃーん! 俺やでー!」
 喧嘩の真っ最中なのは重々承知していたけど、これを見ない手はない。喧嘩のことは一時忘れて、とりあえずからかってやろうと手を振って声を上げると、俺に気付いたらしい人の群れがこちらを見てさっと道を作った。こういう時生徒会って便利やなあ、と思ってたら、人垣の間から小林が顔を出した。


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