(不機嫌会長)[ 9/22 ]

「――それで、会議室の整備ですが……秋場さんが十一時からクラスの模擬店の当番に出るので、その時間、出れる方います?」
「俺出れるよー」
「では南さん、お願いします。十一時半から会議室で弁論大会が始まるので、その前に用意しておかないといけないのが――」
 あっという間に日々は過ぎ去り、気付けば文化祭前日。生徒会室で、何度目かの打ち合わせが行われていた。ホワイトボードに書かれたタイムテーブルをペンで指しながら、沖田が言う。
「――二時になって秋場さんが戻ってきたら、南さんは五時まで休憩と巡回です。秋場さんはその前に休憩済ましておいでくださいね」
「了解ー」
「あー、ったくタリィな。二時に戻ンだな」
「そうです。小林さんは、クラスの当番三時からでしたよね。じゃあ一時半から休憩取って、そのままクラスに行ってください。それから――小林さん?」
 淀みなく進んでいた沖田の進行が止まる。急にしんとした生徒会室で、全員の視線が、奥のデスクに座る小林に注がれていた。
「小林さん、分かりました? 一時半ですよ」
「……ああ」
 ぶすっと小林が答える。沖田、南、秋場、寺尾が顔を見合わせる。それから沖田が言った。
「どうしたんですか? なんだか機嫌が悪いようですが」
「……別に」
 小林はそれきり黙ると、明後日の方を見ながら頬杖を付いている。不機嫌なのは誰の目にも明白だった。もう一度四人は顔を合わせる。
「たっちゃんどうしたの? 悩み事? そんなにメイドが嫌?」
「会長殿よォ、往生際悪ィぞ? 写真見たけどよ、なかなか似合ってたじゃねェかよメイドも」
「嫌なのはわかるが、いつまでも拗ねているんじゃない。馬鹿になったと思ってやり遂げるんだ」
 南、秋場、寺尾がそれぞれなだめるが、小林はやっぱり黙ったまま。それもそうやろう。小林が不機嫌なのは、おそらくメイドのせいじゃなくて、
「……京平が足りない」
「は?」
 と言った四人の声がキレーにハモった。四人の目線が今度はそろそろと俺に移る。俺はしょうがなく言う。
「あー……俺ら、今喧嘩してんねん」
「ええっそうなの? なんでまた」
「まあちょっと事情があってな。つーわけで沖田、見回りは俺と小林一緒にせんといてな」
「分かりました」
「なっ! ちょ、ちょっと待てよ京平!」
「ねー喧嘩って? どっちが悪いの?」
「小林」
「やっぱりー」
「おいっ! 俺は悪くないだろっ! 正人と輪島の喧嘩に巻き込まれただけで……」
 小林がまだ吠えてくるので、俺はその目を見て言ってやる。
「お前が悪いよ。俺夏にあったことまだ忘れてへんからな。いつまでも根に持つからな」
「ぐ……!」
 例の件を持ち出すと、小林もようやくおとなしくなった。それを見届けると、沖田が一つ咳払いして言う。
「いいですか、では打ち合わせを続けますよ。会議室は三時に閉めるので、その後秋場さんは寺尾さんと合流して体育館の整備に――」
 その後の打ち合わせも、小林はずっと不機嫌に口を噤んでいた。だから打ち合わせが終わった後、生徒会室を出ようとした時に小林に腕を掴まれた時は、ちょっとびっくりした。
「……」
 なに? とは言わずに、目線だけで尋ねる。すると小林はちょっとひるんだように後ずさったが、はっきりと言った。
「今日、俺の部屋来いよ」
 握られた部分から、小林の熱が伝わってくる。小林が欲求不満なのが手に取るように分かった。しかし俺の答えは最初から決まってる。
「嫌。喧嘩してるもん」
「だからあれは悪かったって! もうビデオは消したんだからいい加減に……!」
「だから文化祭で決着付けたらええやん」
「決着って……」
「決めたやろ、投票で負けた方が勝った方のゆうこと聞くって。そしたら俺も綺麗さっぱり忘れるわ」
「え、」
「ちょっと、藤村さん? 行きますよー」
 沖田がドアの入口から叫ぶ。俺はぱっと小林の手を振り払う。
「はいはい、今行くー」
 小林を残して部屋を出る。俺はこれから沖田と一緒に体育館の準備に向かうことになっていた。並んで歩き出す。沖田はプリントを見ながら何やらぶつぶつ言っていた。
「開会式終わったらすぐ室内楽部の演奏会の準備だから、……雛壇を舞台袖にスタンバイさせておいて……上手に三つ、下手に――」
 何とはなしに廊下の時計で時刻を確認すると、午後五時を少し回ったところやった。そういえば、窓から差す西日が眩しい。太陽に目を細めながら廊下を歩いて、校舎から体育館への渡り廊下に差し掛かった時、突然大声が響き渡った。
「京平てめェどこ行ってやがったたぁああ!!」
 えっ、と沖田と二人声のした方を見ると、


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