(新学期)[ 7/22 ]

 それから数日後。夏休みは終わり、とうとう三年二学期が始まってしまった。始業式が終わった後のロングホームルームで、俺は珍しく真面目に田中の話を聞いていた。
「――で、夏休み前に言ってた通り、今週の土曜は学力テストを行うから、必ず登校するように。サボったり情けねェ点数取ったやつは西村先生の個人授業があるからそのつもりで。それから――」
 今週の土曜にテストか。さっき渡された予定表のプリントにも、来月全国模試があるって書いてたのに。ほんま、試験多い。
「――進路について、ハッキリしてきたやつも多いだろうが……まだ決めかねているやつは、いつでも言うこと。休み時間でも放課後でも、進路指導室開いてるから。担任――つまり俺に聞いてもらいたいってやつは、なるべく早くアポ取りにこいよー。それで――」
 進路、かあ。俺もまだはっきり決まってへんねんな。とりあえず親は俺を大学に行かせる気やから、俺もそう思って勉強してるけど。まあ親が行かせてくれるっていうんなら、大学は行っといていいとは思ってるんやけど……どこの大学でどの学部を受けるのかは、まだサッパリ。夏休みはとりあえずセンター受けれるように、を目標に勉強してたけど。
「――以上だ。では、残りの時間で文化祭の準備。他のクラスまだホームルームやってるから、静かにやれよー」
 田中が教壇を降りると、生徒がざわつきながら立ち上がり、文化祭の準備をし始める。俺もそれに混じりながら、ふと田中の方を見てみたら、なんと志賀が田中に話しかけていた。二人は何か話すと、並んで教室を出て行った。雰囲気からして、たぶん進路の相談やろうか。なんか意外なもん見てもうたなあ、とか思ってると、ケンに肩を叩かれた。
「どしたん、ぼーっとして」
「ああ、志賀が……」
 と、言いかけて止まる。なんとなくケンのことも気になった。
「ケンはもう進路とか決めてんの?」
「え? ああ、うん」
 するとケンはあっさりと頷いた。俺はちょっと驚きながら訊く。
「へえ、決めてんねや。どこ?」
「京都の大学。龍……、と、友達がそこ行くゆうから」
「へえ、……ちなみに学部は? 何受けんの?」
「スポーツ健康科学部」
「何それ、なんかわからんけどかっこええな」
「やろ」
 ケンは楽しそうに笑う。
「夏休みに色々調べてんけど、今って色んな学部いっぱいあんねんな。我ながら面白そうなとこ見つけたと思うわ。まあ、受からな意味ないんやけど」
「せやなー」
「京は?」
「えっ?」
 突然訊かれて言葉に詰まる。ケンはごく普通の様子で尋ねる。
「京はどこ受けんの? こっちの大学? それか地方?」
「え、……いや……えっと……」
「……まだ決めてへんの?」
「う……」
 うん。と、頷く。ケンはふーん、と言ったが、特に呆れた様子もなく言った。
「まあ京頭ええしな。どこなりと受かるやろ。それでもそろそろどっか決めといた方がええとは思うけど」
「……せやんなあ……」
「まあそういうのは一人でじっくり考えたらええわ。準備、はよしよ」
「うん」
 進路の話はそれで切り上げて、文化祭の準備に取り掛かることにした。王と一緒にマネキンをお化け屋敷仕様にする作業をしながら、俺はぼんやりと考えていた。
 もう皆、進路とかちゃんと決めてるんや。俺もそろそろ真面目に考えやなあかんなあ。なんも考えてなさそうなケンや志賀も考えてるんやし。
 ケンの言った言葉が脳裏を過る。
『京はどこ受けんの? こっちの大学? それか地方?』
 高校を卒業したら、当たり前やけど皆と離ればなれになる。けど、その中には行った先でも会えるやつもいるやろう。でも、俺は? 俺はどこに行くんや。こっちの大学? 地方? 誰と一緒になって、誰と離れるんやろう。
 足元がフワフワしてる、と思った。目指すところを決めてへんのは、こんなにも不安定な気持ちになるもんやねんな。




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