いつか見た遠い日の、

楽しい夢は、2人で記憶を繋げばもっと楽しく。
悲しい夢は、2人で記憶を分かち合って悲しみを半分に。

私たちはそうやって、お互いの記憶を共有してきた。起きている時は一緒でも、寝ているときに見る夢はそれぞれ違うから。記憶に残るくらいの夢は、起きた後に触れ合って、『自分だけの記憶』から『2人の記憶』に書き換えてきた。
私が時々見る、予知夢のようなもの。多分、マリスにはない力。そういう夢の時だけは、すぐには共有しないこともあったけれど。すぐ近い未来に起こる出来事で、嬉しいこと、マリスに驚いて喜んで欲しくて誰かが準備していることなんかは、内緒にしたりもした。後からマリスに気づかれて、ちょっと拗ねられたりしたこともあったけれど。
ほとんどの夢の記憶は、2人のものだった。私が見た夢はマリスの記憶でもあって。マリスの見た夢は私の記憶でもあった。

――だけどひとつだけ、マリスには教えられなかった夢がある。

赤い、赤い世界で、マリスを狙って放たれた凶弾。マリスを押しのけるように、咄嗟に射線に割り込んだ。貫かれた場所が熱くて、それ以外の場所はだんだん冷えていくような、そんな感覚。私を抱えて、マリスが何か言っていたのに、その声は聞こえなかった。自分の顔より見慣れたその顔が、だけどかつて見たことがないほどに悲痛に歪んだ表情を浮かべていて、そんな顔をして欲しくなくて伸ばそうとした手は、思うように持ち上げられなかった。
……だけど、良かったと。夢の中の私は、マリスが傷つかなくて済んだことに、心底安堵していた。



「……どうして、忘れていたんだろう」

重要な意味を持つ、夢だったのに。夢を見てしばらくの間、これが予知夢だとしたら私はマリスを守って死ぬのだと、私の命と引き換えにマリスを守れるのだと、その時が来たら絶対に失敗してはならないと、そう、思っていたのに。
今となっては遠い昔のことのように思える、まだエスペラントの力があった頃。世界樹の元で、仮初の平和を享受していた頃に見た夢。
当時はまだ、どうしてマリスが攻撃されるのかなんてわからなかった。フェストゥムでもなく人間に、殺されるかもしれないなんて。……今なら、その可能性もあると、わかる。マレスペロに協力することを選んだときに、人類の敵になってしまったから。
予知夢かどうかはわからない。その時になってみないとわからない上に、もう能力を失ってしまった私には、ふたたび予知が降ってくることもない。
ただ、ひとつだけわかるのは。

「マリス、……私が、守るから」

私の命の使い道。はじめからどこにもいなかった私が、今ここにいる意味。
マリスのいのちが、途切れることなく先へ進めるのなら。私は一緒に先へいけないのだとしても、構わない。
あの夢が、現実になるのだとしたら。その時は迷わずこの身を差し出すと、正夢にして見せると、そう、改めて決意した。

もし本編のマリスが身代わりで回避できそうな死に方をした場合、実際に代わりに夢主が死ぬ生存ifを書くんだろうなと思います。
20201024
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