まどろみの中

「……すぅ」

僕の腕の中で小さく規則正しい寝息を立て、眠るナマエ。その寝顔は穏やかで、少し安心した。最近悪夢を見ると言っていたけれど、今日は見ずにすんでいるようだ。

「そろそろ起きないと学校に遅刻するんだけど、」

ナマエを起こさない程度の声で呟く。総士もよく学校をサボるし、僕だってたまにはいいかもしれないと少し思った。どうせ授業の中身は総士のために作ったものだ。僕が受けなきゃいけないものでもない。

「……、」

ナマエの長い髪の端に、指を通して少し持ち上げてみる。指に絡むことなくさらさらと流れ落ちていく白を、見るともなしに眺める。かつては僕と同じ黒だったはずの、今は色を失った髪の毛。

――何かの折に、ナマエがそのまま髪を伸ばしている理由を聞いたことがある。直接聞いたのだったか、他の誰かに答えているのを聞いたのだったかははっきりしない。ただナマエは、髪を染めることもなく白髪のまま伸ばし続ける理由を、「私が世界の異物だと、忘れないようにするため」だと言った。
ナマエが自分を異物だと、本来ここにいるものじゃないと、そう言ったことがあまりにも衝撃だった。

「ナマエ、」

その時のことを思い出して、知らず腕に力が入った。

「ん、……」

小さく身じろぎするナマエ。起こしてしまったか、と様子を見ていると、もぞもぞ動きはしたもののまた眠りに落ちたようだ。
眠りを邪魔せずにすんで安心したような、目覚めてほしかったような、そんな複雑な気持ち。

「ナマエ、……ナマエは、ここにいるよ」

異物なんかじゃない、僕の大切な片割れ。纏う色彩が変わっても、それは変わらない。
髪の端を弄ぶのをやめて、あたまを撫でる。無意識になのかより近くにあたまを擦り付けるナマエに、笑みがこぼれた。

「……おやすみ、ナマエ」

ぬくもりが眠気を誘う。ナマエはしばらく起きそうにないし、僕も二度寝してしまおうと瞳を閉じた。
起きたら今度は声が聞きたいな、と思った。ナマエがここにいる証を、たくさん感じられるように。

20201024up
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