もっと痛みを

※引き続きグロ注意




「……おや」
『ぁが』

ぐに、と何かを踏む感触がして、マレスペロは歩みを止めた。足元を見ると、軍靴の爪先からくるぶしあたりまでが、廊下の床に開いた大きな口の中に飲まれている。否、正確には床の上にうつ伏せに倒れた少女、そのぱっくり割れた背中の口に、マレスペロは足を踏み入れていたのだった。

「ナマエ?こんなところでどうしたんだい」

青紫に光る口内から足を引き抜いて、マレスペロは長身を折り畳むようにナマエを覗き込んだ。あり得ない角度に曲がった首では頭を動かすことができず、ナマエは後頭部に目を開いてマレスペロを見た。ぎょろりと動く金色の、巨大な目玉。

『マリスがね、いっぱい痛いをくれたの!』

喉が潰れて声が出せないために、背中の口で意思を飛ばして、ナマエは嬉しそうに話した。

「それはよかったね」

ナマエをよく見れば首以外にも手足の関節を砕かれた跡があり、マレスペロは軽く感心した。
マリスは無意味な暴力を嗜好する人間ではないし、ナマエの求めにいちいち応じるほど親切でもない。多少まとわりついたところで無関心にあしらわれるだろうと思いきや、一度殺されるくらいの殺意を引き出すことに成功したらしい。
ナマエは多少体を損傷したくらいで存在が消えることはないが、並の人間ならとっくに死んでいるはずの怪我だ。ナマエが読んだマリスの意識、それによれば、マリスにとっても殺人を犯したに等しい感覚があったようだ。

『うん!やっぱりマリスは痛い、マリスの痛いはおいしい!』
「満足したならおいで、ナマエ。新しい体を作ろう」
『ええー?』
「不満なのかい?」

ボロボロになった体を再生させるよりは新しく作った方が早いとマレスペロは思ったのだが、ナマエの反応は嬉しくなさそうなものだった。表情があれば、口を尖らせ頬を膨らませていたかもしれない。

『だって、いたいから』
「作り直して痛みがリセットされるのが嫌なんだね」
『そう』

致死の怪我を負っても死なず再生もしないということは、痛みを感じ続けるということでもある。余程マリスに与えられた痛みが気に入ったらしいナマエを、マレスペロは微笑ましく見つめた。

「そこまで壊れてしまうと、もうこれ以上は壊せないよ。もっと痛みが欲しければ、やっぱり新しくしたほうがいい」
『……マレスペロがそこまで言うなら、うん。痛くない体を作るよ。でもその前にマレスペロ、マレスペロもいたいをちょうだい?』
「いいよ」

マレスペロは立ち上がると、右手をナマエの上にかざした。金色に発光する右手から、同じく金色に光る針状の物体が無数に飛び出し、ナマエの体を床に縫い付けるように突き刺さった。

『あは、痛いねえマレスペロ!でもマレスペロはへた!』
「下手?」

思わぬ評価に不快よりも興味が勝り、マレスペロは聞き返していた。

『うん。マレスペロが痛いを持ってないから。ナマエは痛いけどいたくない』
「へえ。マリスは、痛いんだ?」
『マリスは痛いよ。いっぱい、たくさん、いたい』

ナマエの言葉に目を細めて、マレスペロは頷いた。

「わかった。じゃあ、新しい体を作ったらまたマリスに壊してもらおうか」
『うん!マリス、次はどんな痛いをくれるかな?楽しみだね!』

20201013up
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