人は手に手に武器を持ち叫ぶ。
この手に自由を。この手に力をと。
人は何を求め、何を目指して進むというのだろうか。
それを望んでいるのはほんの一握りの人間だけだ。
大多数の人間は、この愚かで無意味な戦いが終わるのならば。
自分達が巻き込まれさえしなければ、どちらが勝とうが負けようが関係ない。
命さえ、助かるのならば。
国を統治するモノが、人の姿をした獣だとしても。
彼らには関係がないことなのだ。

「こんなものを」

見続けることに何の意味があるというのですか?
空に向けて問いを投げる。
人は同じことしかしない。
歴史をなぞるように、人は同じ争いの歴史しか積んでいかない。
本を手繰れば必ず節目節目に訪れる大きな国同士の戦い。
僕は、その一つに立ち会った。
宿命に操られ、共に歩んできた者を失い、それでも彼は一つの国を倒し、新たな国を築いた。
しかし、人は不変を望まない。
変わることを恐れながら、変わらぬことに恐怖する。
矛盾している。変わらぬ平穏を望みながら、絶えず争う。
なぜ?
僕にはそれが理解できない。
人は、なぜ互いに干渉しようとする?
それが争いを生むのだと。
妬み、憎悪し。
奪い、支配する。
何も見なければいい。
何も触れなければいい。
そうすれば、もっとこの世界は静かになる。

「ここにいたんだ」

よいしょ。
年寄りじみた掛け声をあげて、それはここ…地平が見渡せる塔のてっぺんに登ってくる。

「…なにか用?」
「別に。ただ下から君が見えたから」

にこり。
人の良さそうな笑みを浮かべてそれは言う。
小さな指先で塔の下をさして、ね?と首を傾げる。
何の、ね?だ。

「わざわざそんなことをしにここまで来たの?ご苦労様」
「もう、せっかく苦労して登って来たんだから少しはねぎらってよ」
「なんで?別に来いって呼んだわけじゃない」
「…意地悪」
「なんとでも」
僕の言葉にそれ…この城の城主は頬を膨らます。
怒っているということを態度で示したんだろうが…僕には関係ない。
こいつは、いつもこうだ。
石板の前に立っている時も、これが通る人通る人に話しかけている姿を見かける。
見たいわけじゃないのに。
これはいつも僕の視界にいる。
わざとなのか?聞いてみたい気もしなくはないが、それを足がかりに干渉されたら面倒だった。
これは、そういう人間だった。
ようするに。

「お節介って言葉知ってる?」

今まさにあんたにぴったりな言葉を吐いて、それは笑う。

「ルックってさ、なんか構いたくなるんだよね?言われない?」
「言われないし迷惑だ」
「僕のおねぇちゃんが誰かわかるよね?」

あぁ…。
思わず納得しかけた自分を叱る。
あの姉にしてこの弟あり、か。
姉だというナナミと言う人間も人の迷惑を省みない。

「ルックってさ」

うーっと唸りながら城主は両腕を伸ばす。
遠く、地平の彼方へと沈もうとしている夕陽を眺めて溜息をつく。

「なんか、いつも何か考えてて、いつも難しそうな顔してるなって思って」

辺りに夜の闇が忍び寄る。
眼下の小さな人の集まりは城や、その周りに形成された街並みに消えていく。
明りが灯り、城の煙突からは夕食の準備が進んでいるのか、食べ物の匂いが漂う。

「ねぇ」

何を考えてるの?
小さな声でそれは問いかけてきた。
それに答える気はない。
…違う。
答える為の答えがない。

「何も」

誤魔化すことはできただろう。
なのに、僕は珍しく僕を語っている。
いや、それは正しくない。
僕は、僕を知らない。
僕が何者であるかを定義する言葉を知らない。
傍観者。星の守人。
風使い。
真の紋章。
真なる風の紋章の。

「何も考えてない。考える必要はない」
「そんなことない」

強い、否定。
見ればそれの目は相変わらず地平を見つめ続けている。
その目を、僕はどこかで…。

「考えることを放棄しちゃダメだ。みんな、考えてる。どうしたら生きていけるのか。どうしたら、この戦いが終わるのか、平和に暮らせるのか」
「…無駄なことだね」

それは無意識に口をついて出た。
僕が、他人に自分の欠片を見せるなんて。
でも、言わずにはいられなかった。
だってそうだろう?

「誰もが平和を望んでいたら争いなんてものは最初から起こらない。安穏に生きていければそれでいいなんて、現実的じゃない」
「…かもね」

意外だった。
この、人が良いだけが取り柄のような奴が。
怒ると思っていた。
あっさり放たれた答えに僕が逆に言葉を失う。

「でもさ、信じたいじゃない」

何を?
問うために開いた口は、間抜けにもその形を保ったまま止る。
笑っていた。
僕を見て。

「その日がいつか来るって、信じたいじゃない?」

なぜか、それを馬鹿にすることはできなかった。




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直打ち。
なんか…泣き虫だったはずの宅の2主が…強気と言うか。
ルックの独白みたいな話になってしまった…中二くさいし…中途半端な終わり方ですいません。


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