Loop ※パラレル的な |
永井は最近、驚くほどに訓練の成績が上がった。元々運動神経やその他諸々の素質に恵まれた奴だとは思っていたけど、数日前まで訓練で弱音を漏らしていた奴とは思えないくらいの成長っぷりだ。 ……例えるなら、そう、別人みたいに永井は変わった。若者らしいちょっとした愚痴、弱音を口にしていたのがめっきり無くなって、苦手だと言っていた上官に対しての態度も様変わりした。顔をあわせるだけで半ば眉を顰めかけていたのが、今ではどこか嬉しそうな雰囲気を漂わせていたり。後輩であり、それ以上に大切だと思っている永井の成長は確かに嬉しい──のだが。 「永井、お前最近何かあったのか」 「え?」 隣にいる永井が振り向いて、何のことっすか、と首を傾げた。きょとんとした様子の永井には、とても悩みがあるようには見えない。 「急に訓練の成績上がっただろ、それに、三沢三佐への苦手意識も無くなったみたいだし。だから、何かあったのかって──」 「別に何も。何も無いっすよ」 きっぱりとした返事は拒絶じみていて、思わず永井を見返した。永井は何でもないように笑い、強いて言うなら、と言葉を続ける。 「沖田さんに褒められたいな、って思ったんです。前、訓練の成績が上がった時自分のことみたいに喜んでくれたじゃないですか」 話す横顔は少し恥ずかしそうに俯いている。変に勘繰ったこっちの方が余程恥ずかしい気がして、誤魔化すように頭を撫でた。 「よしよし、頑張ったな」 「沖田さん」 子供扱いしないで下さいよ、とムッとした顔の永井に苦笑しつつ、わしゃわしゃと頭を撫でる手は止めてやらない。 「悪い悪い、まぁ、無理はするなよ」 「俺に、悩みがあるように見えたんですか?」 ムッとした顔はするくせに手を払い除けようとはしない永井が不思議そうに訊いてくる。そう言われると、答えに困る。俺はどうして永井が変わったなんて思ったのか。成績なんて上下するものだし、他人への苦手意識だってふとしたことで無くなるものだ。悪い方へ変わったんじゃなく、良い方へ成長しただけなのに。どうして、別人みたいだなんて思ったのか。考えるほどわからなくなった。 「悩みがない奴なんていないだろ」 「うーん……そうですか? 少なくとも今の俺には、ないんですけど」 「もしも悩みが出来たら、いくらでも話聞いてやるから」 「……ありがとうございます、沖田さん。でも大丈夫ですよ」 すっと立ち上がった永井が、くしゃくしゃになった頭を軽く振って。 「悩みなんて、出来ませんから」 信じているのではなく、まるで、そうだと知っているような言い方。 「昨日も明日も明後日も、毎日ずっと変わらない日常が続いてくんです」 最初は嫌だったけど、と永井が屈託なく笑う。 「今は嬉しいです。だって、沖田さんと一緒にいられる」 これからもずっと。それは、いつまでのことだろう。目眩に似た感覚がする。いつまでも。呟いた永井はもう笑っていなかった。酷い既視感だった。 - - - - - - - - - - |