「ふひ、はっ…ははははひはは、これはいい!!実に愉快!」


立ち尽くす雪男を他所に、メフィストは腹を抱えて笑いだした。楽しくて仕方ないと言うように、机をばしばし叩き椅子に仰け反っている。

「てめぇ、笑いごとじゃねぇよ!」

額に青筋をたてたシュラが怒鳴り付けても、メフィストが笑い止む気配はない。それどころか、更にツボにはまっていくようだ。

「本当に、あなた方は最高の兄弟ですね。いや、退屈しませんよ」

一頻り笑い転げたあと、ようやくメフィストは笑うのを止めた。はぁ、と息を吐きながらも、まだ肩が小刻みに震えている。雪男の方を見て、にやりと笑うメフィストは悪魔というよりは、道化師。

「…御託は結構です。兄の居場所を教えてください」

先程まで唖然とした顔だった雪男が、やけに落ち着いる。まるで先程のことなんてなかったかようだ。いや、雪男にしてみれば自分の変化など些細なことなかもしれない。

そんな雪男の様子にメフィストはますます目を細めた。

「明確な。とまではいきませんが、おおよその予想はついているので、これを差し上げましょう」


メフィストは雪男を見据えながら、ぱちんと指をならした。ぽん!と音を立てて、目の前にあったお菓子が、飴色の鍵に変わる。相当古いものなのか、小さな鍵の大半は錆びて黒ずんでいた。シンプルなデザインの多い騎士団の鍵とは違いが、細部まで細かい細工が施されている。

「こんな鍵初めて見るぞ?何処の鍵だよ」

手に取ると、ほんの少しだけ重い気がした。雪男が受け取った鍵をシュラが横からまじまじと眺める。上一級のシュラが知らないのだから、本当に特別なものなのだろう。

「それは、ご自分でお確かめになられては?」

さぁ、どうぞ。目線だけを扉に向けられ、早く行けと顎をしゃくられる。その視線は果てない興味と期待に満ちていた。どこにそこまで彼を引き付けるものがあるのか、シュラは少しだけ気になった。

「行きましょう」

「お、おう」

すでに扉の前に移動していた雪男に声をかけられ、シュラも扉へ足を動かした。どこか堂々とした雪男にシュラは違和感を覚えながらも、燐のことを考えれば気にしている暇はなかった。雪男は理事長室の扉を閉め、内側についていた鍵穴に差し込んだ。ガチリと音を立てて、鍵が嵌まる。


「お気をつけて」


雪男とシュラはにんまりと笑った顔に見送られる。返事をすることも振り返ることもせず。扉は入ってきたときとは違い、鈍い音をたてながら開かれた。重たいけれど、先には道がある。それは、まるで双子の未来を示すようだと、シュラは感じた。




All the good-bye
(そして君に会いに行く)



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