神様に会った。

そこには神様が二人いて、自分は片方の神様の腕に抱かれていた。もう一人の神様の腕の中にも赤ちゃんが抱かれている。でも、その神様は赤ちゃんを抱いている手と反対の手に炎を灯していた。淡く濃く揺らぐ、透き通る青の炎。炎は神様の手を焦がすことなく、ふわふわと燃えている。そして、やはり自分を抱いている神様も片方の手も何かを持っている。不思議なことに、自分の神様が何を持っているのかわからない。目には見えない。けれども、"それ"は暖かくて優しくて心地好くて、思わず手を伸ばしてしまう。
ちらりと横を向けば、もう一人の神様は青い炎を赤ちゃんにゆっくりと近づけていた。ゆっくりと。ゆっくりと。まるで赤ちゃんを飲み込もうとするように、燃え広がっていく。

『ふぇ…ぇぇぇん』

赤ちゃんが弱々しい泣き声を上げた。とても苦しそうで、何度も咳き込んでいる。喘ぐような泣き声に、こちらの胸が痛くなってくる。

(ねぇ、神様。どうしてあの子は泣いてるの?)

(あの炎が苦しくて、泣いているんだよ)

神様が言った通り、赤ちゃんは炎から逃れようと体を左右にねじっている。顔をくしゃくしゃにして拒んでいた。

(あの子はどうなってしまうの?)

(あのままでは、あの子は死んでしまうね。きっと耐えきれない)

触れなくても伝わってくる温かな体温が、やがて失われるのだと言う。動かなくなるのだと。まだ言葉どころか視線さえ合わせていないに。

(そんなの嫌だ!)

あんな苦しそうな声を上げて死んでいくなんて、赦されない。神様が赦したとしても、自分は認めない。

(あの子を助けてあげて)

心からお願いしてみる。けれど、神様は顔を横にふった。縦ではなく横に。

(誰かが、あの役目を引き受けなくてはいけない。それが、たまたまあの子だった)

だから、あの子は受け入れなくてはいけない。神様は変わらぬ表情で言った。その間にも、赤ちゃんの泣き声はどんどん小さくなっていく。どうしてだろう。どうしても、自分はあの赤ちゃんを失いたくない。あの子に傍にいてほしかった。他の誰でもない、神様でもない、あの子に。

(ねぇ、神様)

自分の隣で笑っていてほしかった。これから先の、ずっとずっと続く長い時間を。

(あの青い炎をください。あの子の役目をください。あの子をください。その代わりに、あの子にその手の中のものをあげて)

そう言うと神様は初めて微笑んだ。それは、とても穏やかな顔に見えた。

(苦しいよ?)

(うん)

(つらいよ?)

(うん)

(寂しいよ?)

(うん)

(誰からも愛されないよ?)

(…うん)

自分を抱いていた神様の手に青い炎が宿った。それと同時に赤ちゃんを包んでいた炎が、ほわりと消えていく。赤ちゃんの苦渋に満ちた顔が、落ち着きを取り戻していった。ほら、やっぱり可愛い。すやすやと眠る赤ちゃんは天使のように愛らしかった。
そして、今度は青い炎が自分を包み込んでいく。

(なら君には、この炎と同じぐらい綺麗な心を君にあげよう)

苦しくはないが、炎は熱かった。じわじわと体内に染み込んでくる。

(だから、その心で愛しなさい)

赤ちゃんを腕に抱いたまま近づいてくる神様にお礼を良いながら、必死に手を伸ばして、隣の赤ちゃんの手を握った。







「藤本神父、産まれました!!」

「そうか、産まれたか」

椅子から立ち上がった勢いで出産に使われた部屋に入ると、そこの空気は重かった。産声を上げる赤子とは対照的に、静かな眠りについてしまった母親。

「その……」

「なんだ…?」

言いづらそうに助産婦は口ごもる。新たな命が誕生したというのに、誰も喜ばない。

「兄の方が…魔神の炎を身に纏って…」

その先は言わなくても、わかる。獅朗は冷たくなっていく母親の額に労いのキスを落とす。最期まで魔神の苦痛に耐え、我が子を守り続けた母親に。そして、弟と違い産声を上げない兄の方の頬を優しく撫でた。

「この子は強いお兄ちゃんだ。弟を…守ってあげたんだ」

互いの頬を寄せあって、安らかに眠る子供たち。産まれ瞬間から、お互いだけになってしまった子供。なんの罪もない。産まれ持ってくるのは、未来と夢と希望だけで良かったのに。

「大丈夫だ。お前が弟を守るなら、俺が…父さんがお前を守ってやるからな」





ヘリオスの光をあなたに
※へリオスは太陽神



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