がんがんと鳴り響くような頭痛が、燐の朦朧とした意識を引き留めていた。体全身が火傷を負ったように痛み、吐き気がおさまらない。

(雪男…)

あまりの気持ち悪さに声を出す気力さえない。じわりと目尻に浮かんでくる涙は苦しさからなのか、悲しさからなのかわからなかった。無理やり何処かに押し込められた体は動かすことができない。体を捩ろうとするだけで、引き裂かれそうな激痛に襲われる。狭い箱にでも閉じ込められているのか、身動き一つできなかった。小さく折り曲げられた体の間接がじわじわと痛みを訴えている。息苦しい。




放課後、燐は先生に呼び出された雪男と別れ先に自室に戻っていた。扉を開けたとたん足元にじゃれついてきたクロを尻尾で相手しながら私服に着替る。ベッドに寝そべりうつらうつらしているとき、扉がゆっくりと開いた。何故か嫌な予感が頭をよぎる。雪男にしては妙だ思った。雪男ならもっと普通に入ってくる。体をベッドから起こすや否や、寝ていたはずのクロが唸り声を上げて扉の前に立ちはだかった。
扉から部屋の中に入ってきたのは、雪男とは似ても似つかない黒のフードを深く被った長身の人物。

「誰だよ、おまえ。部屋間違えてんじゃねぇのか 」

"出てけっ!燐に近づくな!!"

あくまで平常心でいようとする燐とは逆に、足元でクロが毛を逆立て牙をむき出しにして相手を威嚇する。
相手はさして気にした様子もなく、燐との距離を縮めていく。

"来るな!!"

クロが相手に噛みつこうと、飛び掛かかる。しかし、振り撒かれた液体によって、それは叶わなかった。

"ああぁぁぁぁぁああ!!"

「クロっ、」

それはただの水などではなく聖水だった。相手は白目を向いて投げ飛ばされたクロに駆け寄ろうとする燐の手を掴み上げると、躊躇いなくクロにかけたであろう聖水を振りかけた。

「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!!」


一瞬で燐の頭が真っ白になる。行きすぎた痛みに、体が何を感じ取っているのか認識出来なくなった。これ幸いと、相手は体から煙を立てて崩れ落ちる燐を、荷物のように抱え上げた。くたりとした燐はぴくりとも動かない。なおも唸るクロを鼻で笑うと、クロを蹴り飛ばして部屋から出ていってしまった。

"りぃ、ん……"

痛みに意識を飛ばすクロの目から涙がこぼれ落ちた。





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