「あれ?」
俺はいつのまにかグラウンドに寝そべっていた。
青い空に、生徒たちの笑い声。
そして、襟詰めの黒い制服。
「まさか…」
体を起こせば、そこには懐かしの我が母校。
長い時間を仲間たちと過ごした、大切な場所。
初めて、人を愛した世界。
「嘘だろ」
唖然としていると、後ろで砂を踏む音が聞こえた。
奏ちゃんかと思ったが、彼女はこの世界にいない。
だとしたら。
「日向…?」
予想通り音無が立っていた。
驚きのあまり微動だにしない音無の目は見開かれたまま。
やっぱり、残ってたのか。
SSSの制服を着たまま。
たった独りで。
「なぁ、音無…」
立ち上がり、動かない音無を抱き締めた。
温かい、心臓の音のない音無の体。
この瞬間が、どれほど愛おしいか。
これだけで俺を幸せになれるのを、音無はわからないだろう。
「日向…」
「音無、俺な」
「お前は、まだ死んでない」
会いたかった。と言う前に、音無が口を開いた。
絶対にあり得ない言葉を。
「なに言ってんだよ。死ななきゃこの世界には来れないだろ」
そう言えば、音無はただ悲しそうに笑うだけだった。
「確かに死にかけてる。だけど、まだ死んでない」
抱きついたままの俺の体を、優しく突き放した。
力の抜けた体は、簡単に音無から離れる。
「今なら、まだ帰れる。だから、日向は帰れ」
「そしたら、お前はどーすんだよ!!」
また、一人で残るのか。
置いて行けるわけないだろ。
戻って音無がいないと思うと、体が冷えて来る。
こんなにも近くにあるのに。
「無理だ…。音無を置いていくなんて」
「日向…」
音無の顔が歪む。
どうして分かってくれないんだと。
一人で辛かったくせに。
頑固なところは変わってない。
他人を優先するところも。
「音無が残るなら、俺も残る」
自分は自分の時間を生きた。
残りは音無のために生きたい。
その瞬間、何故この世界に戻っていたのかわかった気がした。
あぁ、そういうことか。
自分の中で疑問が解けた。
「何で俺がまた此処に迷い込んだかわかったよ」
「え…?」
この確信は絶対だ。
心の底から言い切れる。
「お前だよ。多分、今生死をさ迷ってる俺の心残りは音無に会えなかったことだ。音無と生きれなかった人生そのものに、俺は納得してないんだ」
いつも音無を想っていた。
音無が側にいる人生を願って。
たった一つ、諦めきれなかった俺の望み。
「お前も、行こう」
もう、疲れただろ?
一人で頑張ったもんな。
「いいのか、音無はこのまま俺が死んでも」
「………はぁ、わかった。俺も行くから、お前も帰れよ」
俺の手を握りなら、音無は呆れたように笑った。
「今度は、お前を見送ってから行くさ」
音無はきっと此処で、何人も見送ってきたのだ。
なら、最後にしてはいけない。
最後まで、側にいてやりたい。
「見送って、くれるのか?」
「あぁ、最後まで抱き締めててやんよ」
ずっと、このまま。
「日向…ありがとう」
小さな呟きと共に、音無の目から涙が溢れてきた。
微笑む頬をぽろぽろ零れていく。
どこまでも透明な雫。
この一粒一粒に、音無の沢山の思いが詰まってる。
「もし、神様に会えたら…日向と同じ時間に産まれるよう、お願いしてみるよ」
「待ってるからな」
音無の体を、ぎゅっと抱き締めた。
「日向に会えて…よかった」
温かな音無の体が光になって溶けていく。
最後まで笑顔のまま。
「っ…おと、なし」
いつだって君が心残り
落ち着いたら、ガルデモ以外の曲が聴けない状態になりました。My Songで召されそう。