ここ数ヶ月、まともに音無と触れ合っていない。
原因は受験。
高校三年生の自分たちにとって、大切な試験。
「音無不足だ…」
「馬鹿じゃないの?」
うっかり声に出してしまうと、すぐにゆりから非難の声を浴びた。
スポーツ推薦や指定校推薦で、すでに大学の決まっている俺やゆりと違って音無は一般入試を控えている。
推薦でも良かっただろうに、音無はわざわざ実力で受ける方を選んだ。
「音無なら、ぜってー推薦枠余裕だったのに…」
「日向君が決めることじゃないでしょ。音無君が一般を選んだんだから、応援してやりなさいよ」
「わかってるけどさぁ」
相手してもらえないのは寂しい。
正直に構って欲しい。
というか、応援だけなんて俺の性には合わない。
頑張る音無に何かしてやりたい。
「っても、邪魔んなるだけだしなぁー」
医学部を目指す音無は、一筋縄ではいかないようで、何度も模擬試験を繰り返しては勉強している。
塾に行っていればまた違ったかもしれないが、音無は行っていない。
「あっ…」
今日も1人で帰ろうと教室を出れば、同じように鞄を持った音無がいた。
「音無!」
慌てて近寄れば、音無もこっちを振り向いた。
その顔は青ざめていて、目の下に隈も目立つ。
「日向か…どうした?」
「どうしたってか、お前顔色悪すぎ…ちょっとは休めよ」
「でも来週センターもあるし、まだ気ぃ抜けないんだ」
どこまでも真面目なやつ。
「だからって体壊したら元も子もないだろ」
そっと頬を撫でれば、冷たい。
気づいたときには倒れてそうで、胸が締め付けられる。
「なぁ…俺はお前になんかしてやれねぇの?」
どんな事でもいいから。
支えさせて欲しい。
「じゃぁ…頑張れって言ってくれ。励まして欲しい」
「それだけで、いいのか?」
ただ声をかけるだけで。
それだけで、お前は大丈夫なのか?
「今回ばっかは、俺がやらないと意味ないことだからな。日向に甘えるわけには、いかないさ」
「音無…」
「だから俺が挫けないように見ててくれたら、それで充分有り難いよ」
疲れきった顔で微笑む音無が、どこまでも眩しかった。
「なら、絶対最後まで諦めんなよ!」
「日向じゃあるまいし。夢は自分で叶えるさ」
あぁ、自分の恋人はなんて誇らしいのだろう。
「でもやっぱり暖めるくらいは…」
そう言ってぴたりと音無にくっつけば、あれ?と思うほど音無は顔を赤くした。
「音無、もしかして」
「う、うるさい!」
音無はますます顔を赤くして、俺を振り払って行ってしまった。
やっぱり音無が好きだ。
にまける顔を抑えながら、早足に歩いてく音無を追いかけた。
「おいてくなよ。俺、音無に飢えてんだからさ」
「俺だって…」
あとはお互い何も言わずに、ただ並んで歩く。
いつもより、ゆっくりと。
2人で手をつないだまま。