自分はこんなにも心が狭い人間ではなかったはずだ。
「なに怒ってんだよ!!音無」
「怒ってないから、ほっといてくれ!」
追いかけようとする日向を振り払って、早足で校長室に戻る。
事の発端はとても下らないこと。
コーヒーを買いに行く途中、日向を見つけ話しかけようとしたら自分の知らない奴と日向が話していた。
ただ、それだけ。
自分でも、どうしてこんなに怒っているのかわからない。
胃が捻られるように、むかむかする。
最近、なにかとイライラすることが増えていた。
何がどうと言うわけではないが、苛立ちが収まらない。
そして、その対象は何故か日向。
おかけで作戦会議中に、ゆりに集中不足を指摘される。
調子が悪いことを自覚しながら廊下を歩いていると、後ろから呼び止められた。
「ちょっと糖分摂取したらどうだ?音無」
溜め息混じりの岩沢に砂糖で甘くなったカップコーヒーを渡される。
「ありがとう」
「お前が荒んでるなんて、珍しい」
音無がベンチに腰掛ければ、岩沢もその横に腰掛けた。
どうやら愚痴に付き合ってくれるらしい。
「どうせ、日向のことだろ?」
「………あぁ」
やっぱりな。と肩をすくめられる。
どうせだから、このまま勢いで岩沢に話してしまおうか。
「最近…自分が嫌いになりそうだ」
「どうして?」
「日向が…他の奴と話してるのが嫌なんだ。日向は何もしてないのに、勝手に怒ってるから」
自分の姿に気づかず、名前も知らない奴と話しているのが気に入らない。
笑顔で楽しそうにしている姿を見ると、無性に邪魔したくなる。
制服を見ればSSSのメンバーとわかるが、自分との面識はない。
自分の知らない誰か。
それが一番腹立たしかった。
日向が初期の頃からSSSを支えていたのだから、人脈が広くても当たり前なのだが納得できない。
「自分中心で不機嫌になって、迷惑かけるとか最低だ」
どんどん自分に対する嫌悪感が募ってくる。
「はぁ…今のを日向に聞かせたら喜びそうだな」
「まさか。嫌がられるだろ」
苦笑しながら言えば、岩沢はにやりと笑って俺の胸を指差した。
「音無、それってさぁ…」
まるで死刑宣告を受ける緊張感。
岩沢にはわかっている。
自分のこの幼稚な感情が何なのか。
判決を急かすように、岩沢の赤い髪が夕日に照らされ濃く輝いた。
「要は嫉妬だろ?」
嫉妬。愛する人の心が他へ移るのを憎むこと。自分よりすぐれた人をうらやむこと。
「違っ!!」
日向の顔を頭をよぎる。
自分ではない誰かと話す日向の横顔。
「はっ、はは…嫉妬か」
「そうそう嫉妬だよ、嫉妬」
理解した途端、急に可笑しくなって岩沢と大声を上げて笑った。
こんな初歩的な感情も、他人に指摘されるまで気づかない。
無意識に他人を憎むほど日向を好きになっていた。
「恋愛なんて厄介なだけだな」
「今からでも遅くない。アホは捨てて、直井にでも乗り換えたらどうだ?」
「ま、出来たら苦労しねぇよ」
「だろうね」
岩沢に礼を告げて、そのまま寮へ向かった。
日向が誰と話していようと、彼の隣と笑顔は自分の特権なのだから。
急ぎ足で寮に戻ると、自室の扉の前で日向がしゃがみ込んでいた。
「何してるんだ」
「音無…もう怒ってないのか?」
許しを含んだ目が、自分を映す。
「とりあえず、部屋に入れよ」
扉を開けて、哀れな恋人を招き入れてやる。
ベッドに座って、隣を手でぽんぽんと叩く。
すると、日向が慣れた動きで無の隣に座った。
「なぁ…何で怒ってたんだよ」
意外にしつこい。
まぁ、日向からしてみれば気になるのだろう。
「嫉妬だってさ」
「へ…?」
アホそうな顔。
日向の驚い顔は、すぐに喜色に変わる。
「音無!」
予想通り思いっきり抱きつかれた。
ベッドの上で力が入るわけもなく、2人でシーツに縺れ込む。
「そんなに俺のこと好きなのか?」
「あぁ、思ってたよりずっと好きみたいだ」
知らない奴に嫉妬するくらいには。
「なぁ、音無…」
「ん?」
体を起こした日向が、俺を押さえるようにのしかかってくる。
あっと思ったときには身動きを封じられていた。
そして、目の前には素敵なまでに笑顔の日向がいる。
「これから俺は、ただの一秒だって、お前につまんねぇ思いなんかさせねぇよ」
いっそ独占してくれればいい
(他人の存在なんて論外)
すけ様リクエスト有難う御座いました\(^o^)/
ご期待に添えられたかは、まぁ………。
最後の日向の台詞は『あしながおじさん』より"これからわたしは、ただの一秒だって、あなたにつまらない思いなんかさせないわ"を抜粋。
可愛かったんで使いました(*・_・*)
馬鹿な管理人ですが、これからも宜しくお願いします!