定期的な機械音と慌ただしく走り回る音が聞こえる。
早口に交わされる言葉の中には知識として知っている単語もいくつかあった。
だれか医療知識のある人が他にも生きていたのだろうか。
なら、良かった。自分はもう保ちそうにない。
そう思っていた矢先、誰かが自分の名前を叫んだ。
「…し、音無!音無ぃ!」
「止めなさい、君だってまだ治療は終わっていないんだ」
「俺はいいんだよっ!音無、起きろよ。返事してくれよ…!」
「誰か鎮痛剤を」
五十嵐の声だ。何を叫んでいるのだろうか。
言い争いは良くない。そう言おうとしても声が出ない。正確には体の感覚がない。
おかしいな。どうして動かないんだ。
それに、此処は何処なんだ。自分が寝ていた地面はこんなに柔らかくなかった。
「…っ」
眩しい。暗闇に慣れた瞳には差し込む光は直視出来るものではない。
「先生!意識がっ」
隣から女性の甲高い声がする。
それから、ようやく慣れた視界に白衣を着た男性が入り込んできた。
「音無さん、これが何か分かりますか?」
そう言ってボールペンを見せてくる。
「…ぼーる…ぺ、ん」
馬鹿にするなと答えようとした声は酷く掠れていて、そこで、体が鉛のように重いこと気づく。
「患者の意識が戻った!直ぐに手術室に移せ」
「音無!」
何処かへ行ってしまった男性と入れ替わりに五十嵐が覗き込んできた。
「…い…がらし…?」
「音無、俺たち助かったんだよ!俺も、お前も、みんなだ」
大きく開かれた瞳からぼろぼろ涙を流しながら、五十嵐は"助かった"と言った。
確か、ドナーカードを書いた処までは覚えている。
「たすかったのか…おれたち」
「あぁ、お前のおかげたよ。みんな…お前が助けたんだ」
「そ、うか…」
「音無、ありがとう。ほんとに…ありがとう」
頬に落ちてくる五十嵐の涙が温かい。
俺は助けられたのか。誰かの命を。
「音無さん、今からあなたの手術を行います。いいですね」
「は…い」
戻ってきた医者たちによってベッドが動かされる。
隣を走りながらついてくる五十嵐は途中で看護士によって止められてしまったが、見えなくなるで俺を見ていたに違いない。
「…せん、せい……みんな助かったんですよね…?」
「君が頑張ったそうだね。みんな君にお礼を言っていたよ。よく頑張ったね」
その一言で、涙が溢れ出してきた。涙腺が壊れたかと思うほど流れていく。麻酔によって意識がぼんやりとしている間も止まらなかった。
初音。お兄ちゃんは初めて誰かを救えたよ。