この枯渇は何ですか?
もし自分よりも状況把握に長けた奴が側にいるのだとしたら、是非とも教えて欲しい。
これはどう言う状況ですか?
「………春、どけ」
「…………」
このやり取りを始めてから、もうすぐ時計の針が一周しようとしている。もちろん短い方の針が。
仕事を終えて帰宅したのは深夜間近の時間。
閉めたはずの鍵の開く音に玄関に向かうと、春が入ってきていた。
「春?どうした…って、おまえ今何時かわかってるのか」
「兄貴…」
動かない春の頭に手を伸ばした瞬間、その手を掴まれ抱え上げられる。そして、有無を言わせぬままベッドに押し倒された。
いや、放り投げられた。の方が正しい。
そのまま泉水の上に馬乗りになった春はまた動かなくなった。
「おまえ、何がしたいんだよ」
返事も返ってこない。
ただ泉水を見下ろしたまま。
「はぁ…何があったかしらないけど、兄貴なんか押し倒しても意味ないだろ。慰めてほしいなら女の所へ行け。おまえなら何もしなくても寄ってくるから」
「今日…」
春がぽつりと口を開いた。虚ろだった瞳が泉水を捕らえる。
ゆっくりとした動きで泉水のシャツに手をかけた。
ひとつ。またひとつとボタンを外していく。
「…っ、おい!」
「聞かれたんだ。『あなたは恋をしないんですか?』って…」
はなしている間にもボタンは全て外され、春はベルトをなぞるように触れる。
「だから言ったんだ。恋はしてるよって。」
「はる、春。いいから手を離せ」
殴りかかろうとした泉水の手を食い込むほど掴みあげると、近くにあったネクタイできつく縛った。
「春!」
「なのにそれは恋じゃないって言うんだ。それはただの」
「ふざけるのもいい加減にしろ!春」
「夢だって…」
泉水の頬をなでながら、春は縋るように首筋に顔を埋めた。
今にも泣きそうな顔で。
春の手が頬から滑り落ちて、首から鎖骨へと下りてくる。
「い"っ…」
そして、泉水の小さな突起を容赦なく引っ掻いた。
淡い色だったそれが、濃くなっていく。
「こんなにも苦しいのに」
気怠そうに首を起こすと、今度は胸元に唇で触れる。
睨みつける泉水を無視して、赤くなった突起に歯をたてる。
食い千切られそうな感覚に、喉から悲鳴が漏れる。
「や"、めろ…はる」
「恋じゃないなら、これはなんだ」
初めて見る春の鋭い瞳が泉水を見つめている。
ひゅっ。と息を飲んだ。
飢えた野獣のような瞳に、全身の産毛が逆立つのを感じる。
「兄貴が欲しい」
カチャリ。
腹を撫で回していた手がベルトを外した。
入り込んできた手の冷たさに、腰がぶるりと震える。
「はっ…」
春。名前を呼ぼうとする前に塞がれる。
俗に言うキス。
兄と弟の。
「はぁ、はる。…ぅ、やめっ」
開いた歯の隙間から、春の下が侵入してくる。
縦横無尽に動き回り、唇を噛んでは、泉水の口を貪ろうとする。
溢れ出した唾液が口端からシーツを濡らしていく。
荒い息を吐く泉水とは対照的に、春は泉水のズボンを下着ごと一気にずり下ろした。
「兄貴、好きだよ。大好き。愛してる。兄貴が欲しいよ。兄貴、兄貴。ねぇ兄貴」
「げほっ、ぅえ…は、る?」
「俺を愛してよ」
(飢えた狼の羊は抗う術を知らず)
(ただ食われるだけ)