第三者の介入
人は自分達の周りで起きていることには気づかない
第三者の介入によってその事態を把握する
そのため、人が行動を起こす場合には三人以上の人間が必要である
「つまり、夏子さんは俺たちにとっての第三者に当たるわけだ。」
久しぶりに帰った実家には当たり前のように春がいた。
春にとっても実家なのだから本当に当たり前なのだが、あまりにも堂々とし過ぎていて頭をどついてやりたくなる。
「おまえ、やっぱり夏子さんのこと好きなんじゃないのか?」
いまさら、彼女の話を持ち出してくるなんて。
彼女はひたすらに春を愛していた。
行き過ぎた感情に家族が困らされることも多かったが、それでも、彼女が春を愛していたことに変わりはない。
いくら春でも、あれだけの愛情を見せつけられたのなら心の一つや二つが動かされたのではないだろうか。
「いや、それはあり得ないね」
「根拠はなんだ」
「俺が性的な意味で愛情を抱くのは兄貴だけだからね」
にっこりと、擬音が聞こえてきそうな笑顔で春がこちらを見つめてくる。
宗教的なものは信じていないが、とっさに神様に助けを求めたくなった。
「夏子さんの話じゃなかったのか?」
「兄貴が話を変えたんじゃないか」
春がおかしな発言するのは今に始まったことじゃない。
兄貴に性的な愛情を抱くなんて、それこそ異常だ。
「兄貴が俺の異常さに気づけたのって、夏子さんのおかげだろ?」
とある放火事件について言ってるようだ。
「残念。おまえが夜中にゴミを蹴りまくってた時点で気づいてたよ」
見られていたとは思っていなかったのか、久しぶりに春の驚いた顔を見た気がする。
こういうときの春はちょっと可愛い。
「兄貴、今俺のこと考えてたろ」
「どうしてわかったんだ」
あぁ、春の勝ち誇った顔が鬱陶しい。
「俺に兄貴のことでわからないことがあるとでも思ってるのか」
思ってる。
間髪入れずに答えてやるが、春はあり得ないと足を組み直した。
「それで、夏子さんの話の続きは?」
「え?…あれだけだけど」
そう告げたときの春の笑顔は、とても爽やかだった。
(そもそも、なんで家にいるだ)
(兄貴が帰ってくると思って待ってたんだ。健気な弟だろ?)